京都が世界に誇る世界遺産の中でも、事前申し込みでしか参拝ができない西芳寺(通称:苔寺)。
参拝の計画を立てるのが難しいですが、世界中にも多くのファンを持ち、一度はぜひ訪れてみたい世界遺産です。
今回はそんな西芳寺の徹底ガイドをご紹介します!
世界遺産「西芳寺」とは?
通称「苔寺」として広く知られている西芳寺。
実際に西芳寺を訪れる前に、まずは西芳寺がどんなお寺なのかを知っておくと、より訪れた時の感動と楽しみが広がります。
【世界遺産】西芳寺(苔寺)を100倍楽しむためのマメ知識4選
日本が世界に誇る世界遺産「古都京都の文化財」の17個の構成遺産の中でも、ひと際独特な存在感を放っている西芳寺(通称:「苔寺」)。 今回は、世界遺産の西芳寺が京都の世界遺産の中でも特に「異質」、である所以をまとめてみました。 ・多くの宗派により支えられてきた西芳寺 ・庭園のヒミツ ・多くの著名人に愛された西芳寺 ・特別な参拝ルール これを読めば西芳寺へ参拝した ...
続きを見る
こちらの記事を読んでいない方は、ぜひご一読ください!
西芳寺の事前申し込みから参拝まで
参拝するためには、事前に往復はがきによる申し込みが必要です。
西方寺のホームページを参考にして、参拝人数と参拝希望日(3~5つほど記載しておきましょう)を往復はがきに記入の上、送付すると1~2週間ほどで参拝日を記した返信はがきが送られてきます。
参拝時間はこちらから指定することはできません。
ちなみに、参拝申し込みは参拝日の2か月前から受付開始となっています。特に梅雨の時期と紅葉の時期は申し込みが殺到するため、2か月前に申し込みを行っても第1希望日に行けるとは限りません。
それもあるため、必ず参拝希望日は複数予定しておきましょう。
今回は午前10時からの参拝案内が送付されてきましたが、1日に2~3つの参拝時間帯があるようです。
参拝する際にはこのはがきが必要ですので、必ず忘れないように持参しましょう。
また、参拝料は3,000円以上となっていますので、そちらも忘れずに用意しておきます。
このほかには特に持参する必要があるものはありません。
西芳寺までのアクセス
バスでのアクセス
西芳寺に一番近い場所までアクセスできるのが、バスでのアクセスになります。
京都駅もしくは嵐山方面から京都バスに乗り、「苔寺・すずむし寺」で下車。そこから徒歩5分ほどです。
「苔寺・すずむし寺」まで京都駅からは73系統のバスで約60分、嵐山方面からは63もしくは73系統のバスで約15分ほど。
特に京都駅周辺は交通量が多く、予定時間よりも大幅に時間がかかる可能性があるため、余裕をもってバスを利用するようにしましょう。
電車でのアクセス
電車でのアクセスの場合、阪急電車の桂で嵐山線に乗り換え、そこから1駅の上桂駅が最寄り駅となります。
上桂駅からは歩いて15分ほどでしょうか。少し距離があり、駅の周辺にもそれほど案内板は出ていないので、Google Mapがあると心強いでしょう。
西芳寺の参拝から庭園見学まで
受付
西芳寺に到着すると、まず門の前に係員のスタッフが立っているので、参拝証を提示して中に入りましょう。
参拝のおおまかな流れとしては、
受付(参拝料支払い)→本堂で住職からの説明と般若心経、写経→庭園見学
となります。
全て終わるのに、長くても1時間ほどの所要時間を見ておくと良いでしょう。
写真は本堂ですが、こちらの横にある受付で参拝証を提出し、参拝料を支払って中の本堂に上がります。受付では朱印帳の受付もありますので、本堂に上がる前に申し込んでおくと良いと思います。
そのほかお守りなども販売していますが、参拝が始まる前は多くのお客さんで受付が混雑するため、本堂での説明後に購入することをおすすめします。
本堂(西来堂)でのお話と般若心経
受付から本堂に上がりますが、ここから先の写真撮影等は禁止。ちなみに、本堂は正式には西来堂と呼びます。
本堂に上がると、廊下と中のそれぞれに机が用意されていますので、空いている席に座ります。
正座や畳での直座りが難しい方向けに、廊下にテーブル席も用意されていました。
住職のお話によると、座席数は104つほどだとか。これは本堂の襖の面数と同じなんだそうです。
お客さんが本堂に上がると、住職の方から簡単に西芳寺と本堂についてご説明があり、その後に皆で般若心経を唱和します。
その後に用意された木札に願いを筆で書き、それを提出して庭園の見学に移ります。
机には写経用の紙も用意されていましたが、落ち着いて写経をする時間はありませんでした。。
ちなみに本堂は昭和時代、1969年に建てられたもので、西方寺の中では比較的新しいものになります。
西芳寺の庭園見学
本堂での説明が終わると、庭園案内へ。
庭園は最初に案内係の方から簡単な説明があり、その後は自由見学、そして解散となります。
特に時間制限などはないため、せっかくの参拝でじっくりと庭園を見て歩きたい方はなるべく後から進んだ方が良いと思います。
庭園内の散策ルートは基本的には1本道の一方通行となっており、それほど小道も広いわけではないため、後ろにお客さんが大勢いるとなかなかゆっくり自分のペースで楽しむのが難しいからです。
ちなみに筆者が参加したのは梅雨時の平日(月曜日)でしたが、この日でも60~70人ほどの参拝客がありました。
土日や祝日ともなると、ほぼ満員になるのではないでしょうか。
苔寺と呼ばれる所以
西芳寺が別名「苔寺」と呼ばれる理由は、その力強い緑の庭園を見れば一目瞭然です。
ここまで生き生きとした生命力を感じる庭園は他には見たことがありません。
庭園の説明をしてくださったスタッフの方によると、庭園には約200種類もの苔が生息しているそうです。
西芳寺がこのように苔に覆われているのは、気候の他、この周辺の土壌が苔の生育に適しているからなんだとか。
庭園を見学する際はぜひ地面も細かく見てください。いろいろな形の苔がびっしりと地面を覆いつくしていることが分かるかと思います。
夜泊石
庭園見学は観音堂からスタートします。
観音堂の横から北に小さな池がありますが、その池の中央に南北二列に連なる石が置かれています。
この石は、港に停泊する船の姿に因んで名づけられました。
実はこの石は、南北朝時代に庭園の作者である夢窓疎石が庭園内に建立したと言われている瑠璃殿と西来堂(本堂)を結ぶ回廊の礎石ではないかと言われていますが、定かではありません。
影向石
観音堂から南へと歩き、湘南亭に向かう途中にひっそりと庭の中に置かれているのがこちらのしめ縄で飾られた影向石。
この影向石には次のような伝説が残されています。
その昔、この西芳寺を夢窓疎石と共に再興した藤原親秀がある晩眠りについていると、夢の中で松尾明神がこの石に座り、次のようなことをお話になりました。
「我ここに垂迹したが、ここに社殿を営むなかれ。」
その次の日、藤原親秀がこの石を見てみると、不思議なことにしめ縄が掛けられていたそうです。
それ以来、西芳寺では毎年正月の時に、この石のしめ縄だけを取り換えているそうです。
湘南亭
庭園の南側にあるのが、こちらの湘南亭。
現存の西芳寺の庭園の中では最も古く、桃山時代に創建されたものです。
ちなみに西芳寺の庭園には3つの茶室があり、この湘南亭は最古であるとともに国の重要文化財に指定されています。残りの2つは、大正時代に建てられた少庵堂と昭和時代に建てられた潭北亭です。
この湘南亭の特徴は、L字型に母屋が造られていることです。そして、北側に張り出した月見台が設けられています。
実は北側に月見台を設けるのは一般的ではありません。ですが、湘南亭の月見台が北側に設けられているのは、北側の池の水面に写った月を楽しむためです。
こんな美しい庭園で、水面に写った月を静かに楽しむ-。今では到底できない贅沢ですね。
ちなみにこの湘南亭には、かの千利休が豊臣秀吉に命じられて切腹する前に一時期訪れていたり、岩倉具視が幕府の難から逃れるためにここに身を隠していたと言われています。
美しい黄金池の眺めと三尊石組
湘南亭を後にし、ここから潭北亭へと向かう道が黄金池とそこに浮かぶ2つの島を楽しめる観賞ポイントになっています。
3つの島の一番南側の島、長島の護岸に置かれた3つの石(写真の赤枠部分)は三尊石と呼ばれています。この三尊石は、西芳寺をモデルにして造られたと言われている金閣寺の葦原島、そして銀閣寺の白鶴島とそれぞれの庭園の中心となる池の石組みの元になっていると言われています。
潭北亭
黄金池の東側にあるのが、こちらの潭北亭です。
名前は夢窓疎石がもともと付けたものですが、先ほどご紹介した通りこちらは昭和時代に建てられたものなのでそれほど歴史的な価値はありません。
こぢんまりとした可愛らしい茶室で、三角の屋根に四角と丸形の窓が面白い造りになっています。
向上関
この向上関から上段の枯山水の庭園へと入ります。
この関を抜けた後は、意外と高低差のある石組みの階段が続いていきます。
浄土思想によって造られた下段の庭園と、厭離穢土思想から造られた上段の枯山水の庭園。その2つの思想観が示すように、ここから先の庭園の景観はがらりと姿を変えます。
それまでの豊かな水とどこか浄土の世界を思わせる緑の世界から、ごつごつした石とやや粗削りの地面や石組みがむき出しになった質素な世界。その対比をぜひ楽しんでください。
枯山水(下段):須弥山石組
向上関から指東庵に向かう途中にある、最初の枯山水がこちらの須弥山石組です。
上段の枯山水庭園は、さらに上段と下段の枯山水に分かれており、須弥山石組は下段の枯山水になります。
須弥山石組は手前に大小8個の石を近接して配置し、後ろに大小10個の石をやや間隔を開けて配置しているのが特徴です。
通常の枯山水において、石は縦に配置されるのが一般的ですが、西芳寺のこちらの枯山水は横に配置されており、とても珍しい形式になっています。
指東庵
階段を上がって行くと、指東庵に辿りつきます。
この指東庵は枯山水庭園を前庭とする東向き、宝形造の建物になっていて、西側に国師坐像を安置する祀堂があります。
枯山水(上段):隠山石組
指東庵の東側にあるのが、こちらの洪隠山石組の枯山水です。
何とも大きくて鋭利な石がたくさん配置されていますよね。
この枯山水は作庭当時の姿のまま残されていると言われていて、上段・中段・下段の3段組みの構成になっています。
三段組となっていますが、それぞれがバラバラではなく全体としてもどこか統一感が感じられるのは、それぞれの石と段が三角に造られていて、全体としても大きな三角形のような形になっているからです。
この枯山水は別名「枯滝石組」と呼ばれていて、まさに雄大な滝が流れ落ちる様を表したものだそうです。
枯山水をじっと眺めていると、滝を流れ落ちる雄大な水流の音が聞こえてくるようです。
鯉魚石
この枯滝石組の中段と下段の間には、鯉の形をした石があります。
これは鯉の滝登りを表したものと言われており、まさに荒々しい滝を表現したものです。
龍淵水と座禅石
指東庵を右に進むと、そこに湧水が出ている一画があります。それが龍淵水で、その湧水を取り囲んでいる石組みの内、右側の石組みを座禅石と呼んでいます。
座禅石は、夢窓疎石が実際にこの石に座って作庭の指揮を取ったとも言われており、龍淵水は修行者が身を清めるためにこの湧水を利用していたと言われています。
この石組みも、金閣寺の「銀河泉」、銀閣寺の「相君泉」のモデルになったと言われています。
西芳寺の庭園の美しい景観を表す西芳寺十境
最後に、西芳寺の庭園の美しい景観を表す「西芳寺十境」をご紹介します。
西芳寺十境に挙げられているのは、
衆妙門、幽谷荘、七折坂、希声澗、大歇橋、障日峰、叫猿峡、洪隠山、逝多林、退耕?
の10個ですが、現存するのは衆妙門、大歇橋、洪隠山の3つのみです。
こちらにもぜひ注目してみてください!
いかがでしたでしょうか。
西芳寺でしか味わえない面白い見どころがたくさんあることを知っていただけたかと思います。
もちろん緑の苔に覆われたその美しい庭園だけでも一度は観る価値がある西芳寺。
ぜひ参拝に訪れてみてください!
(参考」:「京の古寺から 6 西芳寺」藤田 秀岳/大通 浩一 淡交社、「古寺巡礼 36 西芳寺」藤田 秀岳 淡交社)