ひとり旅コラム

UNWTO(世界観光機関)、観光業の再開に向けたガイドラインを公表

新型コロナウイルス(COVID-19)が依然、世界で猛威を振るっている中、日本でも緊急事態宣言が解除され、世界でも徐々に経済活動が再開されつつあります。
そんな中、UNWTO(世界観光機関)は5月28日に観光業の再開に向けたガイドライン「GLOBAL GUIDELINES TO RESTART TOURISM」を公表しました。

今回はこのガイドラインの詳細をご紹介します。

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が世界で広がり続けている中、日本をはじめ経済活動を正常に戻す試みが始まっており、ヨーロッパの一部の国においては限定しているものの、他の国からの入国制限の緩和も行われ始めました。

このような世界情勢を見てなのか、5月28日にUNWTO(世界観光機関)は5観光業の再開に向けたガイドライン「GLOBAL GUIDELINES TO RESTART TOURISM」を公表しました。

日本でも東京や大阪で、経済活動の正常化に向けた独自のガイドラインを公表していますが、UNWTOのこのガイドラインも同様に、COVID-19の影響を最低限に抑えながら観光産業を再開するための方針を定めたものになっています。
合わせて、「ポストコロナ」の新しい観光の在り方もうっすらと見えてきました。

それではさっそくこのガイドラインを見ていきましょう。
(※オリジナルのガイドラインは英語にて表記されており、以下は筆者がこれを翻訳(一部意訳)したものとなっております。その正確性に関して保証するものではありませんので、必要な方はオリジナルのガイドラインをご確認ください。)

1. UNWTO(世界観光機関)のガイドラインの概要

ガイドラインでは、まず観光の始まりから終わりまでの流れに沿って新しい指針の概要が示されています。

①旅行に出発する前(情報検索、予約)

・居住国、旅行業者及び目的地の国では、それぞれ旅行者が旅行をする、観光に訪れるときの健康状態やそれを確認するために必要な手続きに関する基準を定め、これを公表する。

・旅行中や旅先で病気になった時のキャンセルポリシーを定める。

・後で行動履歴が分かるよう、必要に応じてデータを共有する(国によってはモバイルアプリで、位置情報から行動履歴を追跡できる仕組みを作っていますが、このようなデータを共有)

ポストコロナでは、個人の健康状態により厳格になる世界が待っているということがよく分かります。

もちろん、これまでも観光や旅行は万全の体調で行くのは当然ですし、旅先での体調管理も、旅を楽しむ上で当たり前のことでした。

ですが、今後は例えば体調に問題ないことを証明するための手続きや、体調に少しでも不安のある旅行者の行動を制限する仕組みが導入されることになりそうです。

また、旅行者の行動を追跡できるような仕組みができると、日本では今のところ個人の行動を追跡するような個人情報の活用はありませんが、旅行先の国によっては自分の行動範囲が監視される、という少し窮屈な思いをすることになるかもしれません。

②家を出発してから飛行機に乗るまで

・公共の交通機関の利用に当たってはなるべく「タッチレス」サービスを活用する。

・移動中は十分な物理的距離を保つ

・地元の公共機関が公表している方針に従う

家を出てから飛行機に乗るまで、この時点でもすでに多くの接触があるわけですが、そのような中でも物理的な接触を極力避けましょう、ということです。

今後ますます電子マネーが普及することにもなりそうです。

③空港、飛行機の機内から目的地到着まで

・事前にオンラインチェックインを済ませて、座席指定も行っておく。

・機内持ち込みの荷物を制限する。

・出国手続きも非接触型の手続きを導入する。

・航空会社や地上オペレーターなど、旅客サービスの従事者は一定の物理的距離を保つとともに、会社や業界で公表されている健康・体調管理を守る

海外旅行を考えた時、空港の職員や出国審査官、機内のCAは不特定多数の人やその荷物に触れることで、感染するリスクが高いと考えられます。

このように出国までの一連の手続きに関しても、今後はチケットレスなどの非接触型のオペレーションの導入が待ったなしとなりそうです。

一番厄介なのは、やはり荷物チェックではないでしょうか。どんな荷物を持ち込むか分からない旅行者の荷物をチェックすることは、どう考えても感染リスクは高いでしょうし、渡航先の国からすれば今もすでに厳しくなっていますが、入国時の健康状態のチェックや検閲体制は今後厳しくなることは間違いありません。

そうなると入国手続きにさらなる時間がかかってしまいそうですが、まさにイミグレーションチェックが完了するまでも「三密」の状態になりそうなので、入国手続きの時間が長引くことは悪循環です。

いずれにしても入国管理は、各国とも頭を悩ませることになりそうです。

④現地にて

・追跡アプリをダウンロードする。

・宿泊先、レストランなど現地の管理方針を確認し、それに従う。

・電子マネーやオンラインサービスを用いた非接触型の決済、チェックインを行う。

・オンライン予約やe-チケットなど、現地のアクティビティでも非接触型のオペレーションを実施。

・定められた場所では健康や衛生管理に従った確認を行う。

・旅行者には旅先で公表されている健康上、衛生上のルールをSMSなどを利用してあらかじめ通知しておく。

これまで見てきた通り、大きな流れとしては「非接触型のオペレーション」と「健康、衛生管理の徹底」の2点に尽きるかと思います。

衛生管理に関しても、当然国ごとにルールが異なっているので、旅先では旅先のルールに従った行動が求められることになります。

2. UNWTO(世界観光機関)のガイドラインの詳細

それではガイドラインの詳細な中身を確認していきます。今回のガイドラインは、以下の8つの項目ごとに方針を定めています。

①地、空、海のいずれにおいても安全でシームレスな入国/出国管理
②旅行・観光業における横断的な指針
③安全な飛行機での移動
④健康・衛生管理
⑤旅行代理店、ツアーオペレーターに向けた指針
⑥会合やイベント
⑦アクティビティ、テーマパーク
⑧旅行先の計画、管理

順番に見ていきましょう。

①地、空、海のいずれにおいても安全でシームレスな入国/出国管理

・健康状態の記録に基づくリスク評価を行い、それに従って適切な入国/出国手続きを定める。

・政府、旅行・観光業従事者、旅行者それぞれが果たすべき責任を明確にする。

・再び国境を開くにあたって、地域的・国際的な協力体制を築く。

・観光の規制や旅行者への対応策は、世界的に認められた健康機関、権威が最新の情報に基づいて公表しているリスク評価などに基づき、定期的に見直しを行って改定する。

・安全、シームレスかつ非接触型の観光を実現するために、最新の技術を積極的に採用する。

・観光業における規制や方針に関する情報を観光業、旅行業従事者や旅行者が容易にアクセスできる体制を築く。

・観光業、医療機関、公共交通機関、屋内施設業者が協調して規制や方針を調整する。

・観光や旅行における健康、衛生面での規制や手続きを世界的に調和させるとともに、旅行者を追跡するモバイルアプリの運用も相互に協力する。

・出発/到着時の感染リスクを緩和する。

・観光を活性化するため、政府はビザの緩和や発行費用の免除などを検討する。

②旅行・観光業における横断的な指針

・健康、安全、衛生面に関する方針を世界でなるべく統一させる。

・安全、セキュリティ面のみならずサービスの安全な提供に関して人材教育を行う。

・顧客と規制や方針に関する説明を行い、旅行客が旅行時やソーシャルメディア等を利用して、常に情報に触れられるようにする。

・人が触れるモノをより頻繁に除菌する。

・お客様や旅行者が旅行時やイベント時に病気にかかった時の対応計画を策定する。

・社内でCOVID-19対応委員会を組成し、定められた方針の実行やそれに基づくサービスの提供体制を確保する。

・人が触れるポイントを洗い出し、IT技術を導入するなどして業務オペレーションを見直す。

・政府や世界機関と、観光や旅行業に関する統計データの管理、情報提供を調整する。

・従業員に一定の福利厚生の従うなど、労働環境における健康面や衛生面に配慮する。

・公共機関と旅行・観光事業者が連携して、新たな仕組み、慣行を探る。

③安全な飛行機での移動

・一定の方針に基づく健康チェック手続きの導入。

・機内、その他の清掃、除菌をより頻繁に行う。

・乗客、乗組員にマスクを配布し、渡航中はマスクの着用を求める。

・機内や搭乗手続きでも乗組員と乗客の物理的な距離を一定に保つ、より接触機会を減らす。

・飛行中の機内の移動を制限する。

・乗客とのやり取りや乗組員の負担を軽減するため、機内サービスを簡素化する。

・機内で乗客が隣同士に着席しないよう調整する。

・飛行中は除菌シートを乗客、乗組員に配布する。

・機内に持ち込む荷物の数を減らす。

・国の助成等により、航空機の維持その他費用を軽減する。

・政府、国際機関その他関連業者と調整を進める。

④健康・衛生管理

・人が触れる場所、モノの除菌や清掃をより頻繁に行う。

・お客様に衛生面での方針に関する状況を簡潔に説明する(前回の清掃日時、衛生管理責任者など)

・紫外線による除菌やイオン除菌といった新しい衛生技術を取り入れる。

・非対面、非接触でのチェックイン手続きや、宿泊客に対して衛生キット(マスク、手袋、除菌シートなど)を配布する。

・より個々のお客様に合ったサービスを提供できるよう、事前にお客様とのコミュニケーションを増やしてお客様を理解する。

・病気になったお客様や検疫用に、予備の宿泊部屋を確保する。

・共有スペースでの一定の距離を保った利用を推進する。

・オンラインメッセンジャーなど、IT技術を利用してお客様とのより迅速なコミュニケーションにより手続きをスムーズに行う。

・オペレーションの柔軟性を高める。

・衛星管理者やお客様防疫担当者など、新しいポジションを作って管理を行う。

・テイクアウト、デリバリーといった新しいサービスを検討する。

・国内の地域に根付いた観光業を促進する。

・地域の事業者や就労機会をサポート、維持できるようマーケティング施策を開始する。

・医療関係、安全・セキュリティ業と連携を進める。

・医療センターと緊急時や有事の対応に関して提携を検討する。

・地域の観光業者、DMO(地域観光組織)と協業、連携を進める。

⑤旅行代理店、ツアーオペレーターに向けた指針

・特定の地域や国内のサービス、製品を購入する際に利用できる割引券やチケットなどを発行する。

・健康、衛生面での方針を定め、デジタルトランスフォーメーションを進める。

・自然や地域に根付いた観光、文化に基づく観光など、持続可能な観光パッケージを促進する。

・新しい観光体験を生み出すためのストーリー戦略を練る。

・より小規模グループや個人にカスタマイズした観光パッケージを作る。

・より短期間の国内向け旅行を活性化する販促活動を進める。

・レンタカーや、ホテルとレンタカーがセットになったサービスを推進する。

・金融セクターと連携して、旅行支出を繰り延べられるような施策を打つ。

・ポイントやマイルを旅行パッケージに組み入れることで、より還元率を高める。

・新しい観光地や体験を創出し、新たな観光業による経済圏を生み出す。

・保険会社と連携して完全に還元されるパッケージを作る。

⑥会合やイベント

・ビュッフェ形式やコーヒーサービスの提供を控え、パックされた軽食の提供に切り替える。

・特定の会合の開催者と共に再開を協議する。

・最初の取り組みとして、デジタルでのオンラインイベントの開催を始める。

・その後、特に必要なテーマ(医療等)に関しては徐々に中規模のオフラインでの会合の開催に移行

⑦アクティビティ、テーマパーク

・お客様やスタッフにマスクやフェースシールドの着用を進める。

・手で触れる場所を極力減らし、そのような場所の除菌をより頻繁に実施する。

・従業員の健康、衛生面に配慮した施策を行う。

・施設内での密集、込み具合が一定以上にならないよう配慮し、家族ずれなどは別シートを用意するなどの対応を取る。

・来園者が一定の距離を保ちながら楽しめるよう、入場制限を行うなど入園者の数を一定に保つ。

・来園者に施設を楽しむ上でのルールの説明と準拠を徹底する。

・物理的に一定の距離を保てるよう、適宜サインや表示を掲示する。

・オンライン決済や事前のチケット購入を推奨する。

・AR/VR技術を導入し、お客様の来園前、来園時、来園後の新たな顧客体験を提供する。

⑧旅行先の計画、管理

・国や地域の健康、衛生面に関連した規制に沿った健康チェックや健康記録に基づくリスク対応手続きを策定し、医療セクターとも連携を進める。

・新しい基準や規制、手続きに関して従業員の教育研修を実施する。

・IT技術を導入し、より非接触型、シームレスで安全な観光体験の提供に努める。

・新しい規制や方針に関する情報を旅行者が容易にアクセスできる体制を築く(SMSでの発信など)。

・まずは国内、地域の旅行産業の再興に向けた各業種間での連携を進める。

・より小規模のグループや、特定のテーマに絞った観光パッケージを提供する。

・もし旅行者の行動を追跡するモバイルアプリを検討する場合は、個人情報の取り扱いに十分に留意する。

・観光地における医療体制の充実を図る。

・観光業、交通機関、医療セクターで連携を深める。

・政府、旅行業者、旅行者の役割と責任を明確にする。

3. UNWTO(世界観光機関)のガイドラインに見るポストコロナの旅行

いかがでしょうか。

項目ごとに規定されたガイドラインには具体的なものから、概念的なものまで含まれていますが、根底にある方針はやはり以下の2つに集約できるかと思います。

・旅行や観光における、健康・衛生面でのより厳しい運用の必要
・ITを導入するなど、可能な限り物理的な接触を回避する運用に切り替える

宿泊業者、飲食業者やイベント業者にとっては、お客様の感染を防ぐためにより徹底した衛生環境の確保が求められ、また物理的な距離を一定に保つには、一度に利用してもらう客数も減らす必要が出てきます。

すでに国内でもこれと同等の運用を飲食業の方などは行っているのをニュースで目にしますが、負担は明らかに増える一方、これまでよりお客様の数を減らしながらの営業で売上は減少、これでは厳しい状況に変わりはないように思います。

一方の旅行者にしてみても、特に飛行機での長時間の移動が必要な海外旅行は、飛行機の利用だけでなく、出国や旅先の入国、さらにその先の旅先での滞在でもこれまで以上に神経を使う必要があることは間違いないでしょう。
そう考えると、海外旅行者の数はなかなか回復の兆しは出てこないのではないでしょうか。

このガイドラインでも提唱しているように、まずは国内の観光業を盛り立てることからのスタートになりそうですね。

皆様はこのガイドラインを読まれてどのような考えを持たれたでしょうか。ぜひ皆様のご意見をお聞かせください!

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