ヨーロッパのバルト三国の1つ、リトアニアに「十字架の丘」という無形文化遺産があるのはご存知でしょうか。リトアニア北部に位置するシャウレイという都市にあるこのスポットは、リトアニアの観光名所の一つとして世界中の観光客から人気を博しています。今回、その「十字架の丘」へ撮影に訪れたレポートをお届けしていきます。
1.リトアニアの無形文化遺産「十字架の丘」とは?
リトアニアの無形文化遺産、「十字架の丘」。発祥がにわかに分かっていないこの場所は、1831年に初めての十字架が立てられたと言われています。それから、徐々に巡礼者たちが各々の十字架を立てていき、いつの間にか無数の十字架が立てられていきました。
しかし、リトアニアはかつてソビエト諸国の一国として共産主義の時代がありました。
この頃のソビエトでは無神論が定着しており宗教弾圧がなされた影響で、教会や聖堂がソビエトの街から無くなっていきました。
しかし、ここ十字架の丘はその弾圧にも耐え、現在も巡礼者たちを始めとした様々な人によって十字架が立て続けられています。
そして、2001年には「リトアニアの十字架の手工芸とその象徴」の一つとして、無形文化遺産に登録されて、一躍リトアニアの観光地として有名になっていきました。
2.【リトアニア】十字架の丘の基本情報(行き方・営業時間)
アクセス(行き方)
今回私は、バスを乗り継いで移動しました。
まず滞在先の首都ヴィリニュスから朝6時30分発の長距離バスで、約3時間かけてシャウレイのバスターミナルまで行きました。そこから10時25分発の12番線の路線バスで、途中の「Domantai」というバス停で下車、バス停から徒歩で約20分かけて到着しました。
こちらが十字架の丘の地図になります。
帰りは、来た道を戻る形で再び「Domantai」のバス停まで戻りました。
しかし、先程下車したバス停とは場所が異なり、帰りのバス停は反対側の道路沿いにあるので少し注意が必要です。そして、13時5分発のシャウレイ行きに乗車し、行きと同様にシャウレイのバスターミナルから長距離バスでヴィリニュスまで戻りました。
こちらはシャウレイバスターミナル行きの時刻表(2019年9月時点)です。この時刻を参考に予定を立ててみましょう。
ちなみに私はバスで訪れましたが、十字架の丘には一般の方も停められる駐車場も設けられており、0.9セントを支払うと利用することができますので、是非ご参考までに。
営業時間
この十字架の丘は入場料は無料で、基本的には年中無休で毎日訪問することができます。
なお、お土産が売っていたりカフェが併設されていたりするビジターセンターは季節によって営業時間が変動しますが、私が訪れたときは午前9時から午後7時までの営業となっていました。ですので、その時間に合わせて訪れることをおすすめします。
3.【リトアニア】十字架の丘、現地レポート
2019年9月下旬、リトアニアの首都ヴィリニュスに滞在していた私は、まだ辺りが薄暗い早朝に宿を出発し、十字架の丘があるシャウレイという街に向かうべく長距離バスに乗り込みました。
シャウレイはリトアニアの北部に位置する第4の都市で、ヴィリニュスに比べるとそこまで大きい都市ではないですが、十字架の丘が有名で国内外の観光客に人気のある都市です。
そして、シャウレイのバスターミナルから路線バスで向かい、下車してすぐに徒歩で自然豊かな道をひたすら歩いていきました。インフォメーションの案内標識が見えてくると、もう少しで十字架の丘に続く道が見えてきます。
その道を真っ直ぐ歩いていくと徐々に観光客も増え始め、私の期待感が高まっていきました。そんなことを思いながら、あっという間に到着しました。
こんなにも一挙に十字架を見たのは初めてで、その光景に圧倒されました。そのインパクトさを感じながらも、早速写真を撮影する準備に取り掛かります。
準備もそこそこに、この十字架だらけの丘の中に飛び込んでいきました。本当に十字架しか立っておらず、その光景は日本では絶対に見かけない異様な光景でした。
十字架に近づいてよく見てみると、一つ一つのデザインが異なっていることが分かり、つい集中して見てしまいました。シンプルな十字架もあれば、キリストが磔にされた十字架など、無数にあるデザインにずっと見入ってしまいます。
階段を登って奥に進んでみても本当に十字架だらけで、段々とどこかの異世界に迷い込んだような感覚へとなっていきました。
十字架の他にもキリストが磔にされたものや聖母マリアの偶像など、キリスト教に関する登場人物が律儀に飾られています。たまにこういったものを見かけますと、ここがあくまでも巡礼者が祈るための場所だと気付かされます。
私が訪れたのが9月下旬と秋と冬の間のような天候でしたが、これから10月になってさらに冬が訪れると、辺り一面に雪が降りしきり十字架にも雪が積もって、それがまた幻想的な光景になりますので是非とも冬に訪れてみたいですね。
夢中で写真を撮っている途中で、脇道に続く階段を見つけて階段を下りました。
この脇道にも十字架が立てられ、その小道を歩いていると少しだけ不思議な気持ちになりました。まるで迷路のような十字架の丘は、360°どこから見ても違和感のない光景で、終始楽しく回ることができます。
ひと通り回り終えて丘を越えると、そこは一面草原となっており、巡礼の場所でこのような言葉がふさわしいか分かりませんが、清々しく気持ちの良い場所になっていました。
この十字架の丘の周囲にはチャペルもあって、巡礼者にとってはとても気持ちが落ち着く安らぎの場所ではないかと感じました。巡礼者に限らず、観光客も十字架の丘を見終えると、周囲のチャペルや草原を散歩していました。
そもそも、リトアニアは多くの宗教を信仰していた歴史がありますが、ソビエトに支配されてからというもの、その支配地域では宗教弾圧を受け続け、リトアニアも例外ではなかったのです。カトリックの司祭たちはソビエトの宗教弾圧に対抗するべく、共産主義に対して反対運動を行い、ここ十字架の丘はその反共産主義運動の聖地のような場所でした。
その後、ソビエトが崩壊に近づくにつれて、徐々に宗教弾圧が緩和され始め、リトアニアが再び独立した後は、国民が信仰している宗教の割合でキリスト教が最も多くなり、今ではローマ・カトリックがリトアニアの国民の大勢を占めています。
ここ十字架の丘には、推定5万以上の十字架が立てられていると言われており、実際に拝見してみて、確かにその数字以上の十字架が立てられているように感じました。これからさらに数が増えていくと思うと、ますます興味が湧いてきますね。
そして、十字架の丘のビジターセンターにはお土産屋やカフェの他にも路面店があり、そこでは十字架を購入することができ、丘の中に記念として立てることができます。
もちろん、自分で持参した十字架も立てることができます。実際に私が写真を撮っている隣で、観光客の方が記念に十字架を立てていました。
こういった宗教に関連する場所ではその宗教を信仰していない人にとって、どう振舞うべきか戸惑うこともあるかと思いますが、宗教とか一切関係なく一人の人間として、是非記念に十字架を立ててみてはいかがでしょうか。
4.【リトアニア】十字架の丘を訪れてみて
以前からリトアニアへ行く際には、必ず十字架の丘に訪れたいと考えていました。宗教的にも歴史的にも、その異様な光景的にもあらゆる要素で訪れたいと思い、ずっと気になっていた場所でしたので、今回念願がかなって訪れることができ、またその想像以上の光景に圧倒されながらもとても充実した経験となりました。
十字架に見る人と宗教のパワー
そして、実際に訪れたことで宗教のあり方を考えさせられました。
キリスト教で十字架というのは、キリストが十字架に磔にされて処刑されたにも関わらず復活したという伝説によって、いつしか十字架を礼拝の対象として拝めるようになった言わば象徴的なものです。
それを普通の草原の中に誰かが十字架を立て始めて、それに続く形で十字架を立てるようになり、現在このようにして1つの観光スポットとして成立してしまうことが、シンプルに考えて宗教の影響がどの場面においても大きいということを見せつけられたように思えます。
また、歴史的に見ても宗教弾圧という危機や処刑されるということに対して立ち向かって、その都度十字架を立て続けてきたパワーみたいなものを感じ、それを含め、その異様な光景に飲まれていきました。
現地を訪れて分かったのですが、本当に様々な人が訪れており、普通に観光している方もいれば、十字架の前でお祈りをしている方もいました。
ふと、誰かが十字架の前でお祈りをしている姿を見ると、ここは普通の無形文化遺産とは一味違う場所なんだと改めて感じます。ある意味、この場所に対するそれぞれの視点が違うだけで、ここにいる人の行動が丸きり違うという点がとても興味深かったです。
私はキリスト圏に住んでいる人間ではないので、十字架だらけの光景は異様な光景に見えてしまいますけど、一方でキリスト教を信仰する人からすると、まるで聖地のような光景に見えてくるはずです。そのギャップがまた、ここを面白い場所として訪れたくなる思いにさせてくれる要因なんだと、実際に訪れて感じました。
滞在時間の目安
私は今回写真を撮影しながら見物していましたので、約1時間半ほど滞在していました。それもじっくりと見物しながら回っていましたので、割と長い時間の滞在だったと思います。
それを踏まえると、一通り見物するだけでしたら、1時間以内で充分に回ることができます。サクサク回りたい方は30分前後で回れると思います。また、バスで訪れる方は帰りのバスの時間を考慮して訪れてみてください。
因みに、日中は観光客が一定数いますので、この光景を独り占めしたいという上級者の方は、朝方に訪れることをおすすめします。というのも、十字架の丘自体は24時間訪れることができるので、人が全くいない朝に訪れるとより世界観を楽しめると思います。
5.【リトアニア】十字架の丘への一人旅参考情報
滞在先
今回私はリトアニアに4日間滞在して、全て首都ヴィリニュスの「Sodu Rooms」というホステルにて宿泊していました。
場所はこちらの地図をご参照ください。
十字架の丘に訪れるために利用したバスターミナルや移動に便利なヴィリニュス駅など、リトアニア国内の観光に便利な交通網が徒歩圏内にあるので、とても快適に過ごすことができました。
9月の気候とオススメの服装
先述のとおり、9月の下旬に訪れましたが、日本の冬とほとんど変わらない気温でした。
特に朝は一段と冷え込むので、この季節に訪れる方は手軽に羽織れるジャケットを持参していきしょう。実際にこの十字架の丘に訪れた当日、早朝のバスに乗るため早起きしましたが、外が寒すぎてベッドから出ることを少し億劫に感じました。笑
あまり日本人が訪れない国だとは思いますが、見どころがたくさんある面白い国だと、訪れてみて感じました。
特にこの十字架の丘は人生で一度は訪れた方がいいと心から言うことができます。
ぜひ皆さんもバルト三国、そしてリトアニアに訪れてみてほしいと思います。今回の記事が皆様のご参考になれば幸いです。
ライター紹介
高橋 良斗
世界中に転がる風変わりな光景を民俗的・美術的観点で撮影しながら旅を愛する旅人&フォトグラファー。
[旅のこだわり]
・「暮らすように旅をする」スタイルを愛する旅人。そのため、旅の一番の目的以外の細かいスケジュールは決めず、あとは旅先の流れに身を任せて気持ちの赴くまま、旅先の空気や雰囲気を感じる旅をする。
・「食」のこだわりは「旅先で楽しむ日本食」。現地の食事ではなく、あえて現地の「和食」を食べるのが好き。
・一人旅のお供にいつもたくさんの本を持参。圧縮袋を駆使して、旅先の移動などで読書をしながら気ままに旅を楽しむ。
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