ひとり旅コラム

「美しさ」とは何だろう?旅が教えてくれる「美しい」ということの意味

旅をしていると、普段見ない光景や景色に出くわすことが多々あります。それは自然であったり、街の雰囲気であったり、人間が作り出した芸術であったり様々ですが、旅の醍醐味はこれらの美しさに触れることではないでしょうか。

今回は旅を通じて見えてくる「美しさ」の意味と、「美しい」と感じる心について考えてみます。

あなたにとって「美しさ」とは?少し思いを巡らせながらお読み頂けると嬉しいです。

1.旅先で感じた「美しさとは何だろう」?という疑問

京都:龍安寺の枯山水庭園

枯山水庭園で有名な京都の世界遺産、龍安寺を訪れた時のこと。
午前9時前に開門して間もない時間帯に訪れたこともあって、観光客はまだ数名程度しかおらず、良い天候にも恵まれてしばらく枯山水庭園を目の前にして佇んでいました。

とても静かで穏やかな時間だったからでしょう。何やら庭園の入口辺りでひときわ大きなボリュームで英語を話す海外からの観光客と、それに付き合っている日本人の話が聞こえてきました。
(ちなみに、この日本人はたまたまそこに居合わせただけで、外国人観光客とは顔見知りではありません。)

会話の内容を要約すると下記のような感じです。

外国人観光客A:
「この龍安寺というのはこれだけ?この小さなロックガーデン(枯山水庭園のこと)しか無いの?」
日本人観光客B:
「そうだよ。このロックガーデンがとても有名なんだ。」

外国人観光客A:
「うーん、そうなんだ。ちょっとこれは期待外れだったかな。。僕は何もここがユネスコの世界遺産に登録されているから来たわけではない。ただ僕自身が『美しい』、『日本らしいすばらしい風景だ』と感じるものを写真に収めたくて京都に来たんだ。僕は他の国でもたくさんの『美しい』ものをこの目で見てきたし、写真で撮ってきた。だから日本でも、ここにしかない『美しい』ものを写真で撮りたいんだ。」
日本人観光客B:
「このロックガーデンが『美しい』と思わないか?」

外国人観光客A:
「これが?僕にはそうは感じないね。京都には素晴らしいものがたくさんあると聞いて来たんだけど、このロックガーデンがその1つだとはとても思えないね。」

こんな会話のやり取りでした。
日本人の方も何とか英語で龍安寺の説明をしようといていましたが、うまく伝わっていなかったようです。

皆さんならこの外国人にどのように答えますか?そもそも、「美しさ」とは何でしょうか?

2.「美しさ」とは?言葉の意味を考える

さて、これからいくつかの写真をご紹介しましょう。それぞれの写真を見て、皆さんは「美しい」と感じるでしょうか。

京都:金閣寺

まず1つ目は、先ほどの龍安寺と同じく京都の世界遺産に登録されている金閣寺。黄金に輝く楼閣は豪華絢爛で海外の観光客にもとても人気がある観光スポットです。

八丈島

2つ目は八丈島の八丈富士。緑豊かで、どこか日本の原風景を思わせる光景は生命力あふれる自然を身近に感じることができます。

マレーシア:ピンクモスク

3つ目はマレーシアのピンクモスク。日本では馴染みの薄いイスラム教の祈りの場であるモスクはその幾何学的に均整のとれた姿や鮮やかな色の外観がイスラム教徒に限らず、多くの観光客を魅了しています。

東京:スカイツリーからの夜景

4つ目は東京、スカイツリーからの夜景です。大都市の夜景はまるで宝石を散りばめたようにキラキラと輝いており、人工ならではの光景と言えるでしょう。

カンボジアとタイの国境に広がる自然

5つ目は、カンボジアの世界遺産プリヤ・ヴィヒアから見下ろした広大な自然の光景です。ダイナミックで迫力のある風景は海外ならではですね。

京都:東寺の紅葉ライトアップ

6つ目はこちらも京都の世界遺産、東寺で紅葉の時期に行われているライトアップ。鮮やかに映えた紅葉が池の水面に鏡のように映し出される姿は、幻想的です。

バングラデシュ:ダッカ

最後にご紹介するのは、世界一の人口密度であるバングラディシュの首都、ダッカ。所狭しといろいろな建物が無造作に並び、多くの人が日々の生活を送っているオールド・ダッカはごちゃごちゃしている一方で活気に満ちています。

 

いかがでしょうか。まだまだご紹介したい写真はたくさんありますが、この写真で「美しい」と感じたものはありましたでしょうか。

実は写真を紹介する際には敢えて「美しい」という言葉を使いませんでした。
最初の金閣寺であれば「豪華絢爛」、そのほか「ダイナミック」や「幻想的」と言った言葉で表現しています。そして、ここに「美しさ」の持つ意味が隠されていると思っています。

例えば、豪華絢爛やダイナミックといった言葉は「美しい」という言葉よりももう少し具体的なイメージを持ちやすい言葉で、それゆえ人によっての感じ方もおおむね揃いやすい。
金閣寺について「ダイナミック」と「豪華絢爛」のどちらの言葉が合うか、と聞かれると「豪華絢爛」と答える人の方が多いのではないでしょうか。

一方で、「美しさ」という言葉は実にあいまいな表現ですし、何が美しいのか?を説明しようとすると、一気に「美しい」と感じていたものが色あせていく感覚になりませんか。

最初にご紹介した龍安寺の枯山水も、「一面に敷き詰められた白い砂は水を表していて、一見無造作に置かれた大小の石にも作者の意図が隠されていて・・・」なんてことを聞かされると、少し美しさが損なわれてしまう気がします。

何でも初めてが新鮮なように、「美しさ」も何の先入観も無くその対象を目の前にして自然に湧き上がってくる感情や感性であって、それには過度な説明は要りません。

3.「美しさ」とインスタ映え

SNSが普及した現在、よく「インスタ映えする」とか「バエる」という言葉を耳にします。
写真を手軽に加工したりしてアップし、交流をするソーシャルサービスのインスタグラムから生まれた言葉です。

先ほどいくつか挙げた写真は果たしてインスタ映えするでしょうか。また、あなたが「美しい」と感じた写真と「インスタ映え」する写真は同じでしたか?それとも違っていますか?

筆者は「美しさ」と「インスタ映え」は似て非なるものと思っています。なぜなら、インスタ映えはソーシャルでの交流が目的なので、どうしても「他人からの注目」ということを考えるからです。俗に言う「いいね」が欲しいというやつです。

ですが、一概に皆がそう思っているかと言われるとそうではなく、純粋に自分が好き、良いなと思った写真をアップしている人も多いはずです。これは自分の中の感性を表現しているという意味で、「美しい」と感じる感性と通ずるものがあるように思います。

また、インスタ映えする写真の中には当然「美しさ」を感じる写真も数多くあるのも事実です。

インスタ映えはソーシャルの中において意味、もしくは価値があるかどうかということなので、それに比べると「美しさ」とはもっと自由で、それぞれの人が自然に持った感性を表したものだと言えるでしょう。

4.「美しさ」は絶対的なものではなく、相対的なもの

冒頭にご紹介した龍安寺のエピソードからも分かるように、「美しさ」というのは人それぞれで感じ方が違います。つまり、絶対的な基準と言うのは存在しなくて、それぞれの人が内に持っている基準で決まる相対的なものです。

これは生まれた場所や育った場所、文化が違えば変わってくるでしょうし、また時代の変遷によっても変わってきます。

例えば、平安時代に美人と見なされた女性の特徴は「細目、鉤鼻(ほそめ、かぎばな)」という顔だったと言われています。現在は男女問わずまぶたを二重にしたり、メイクで目を大きく見せたいと思っている人が多いのではないでしょうか。

また、テレビを観ていると日本で”モテる”人が必ずしも海外でモテるわけではなく、またその逆も然りという話を目にします。

そういった自分の周りにあるものによって、自分の中の「美しさ」に対する感性や基準も変化するので、自分が「美しい」と感じるものは同じ人でも時と共に変わっていくことになります。

5.「美しさ」とは?旅が教えてくれる「美しい」と感じることの意味

これまでいろいろと「美しさ」について考えてきましたが、そろそろまとめに入りたいと思います。

筆者は「美しさ」とは、「個性」だと考えます。

「美しい」と感じるものは人それぞれですし、そこに正解や不正解は存在しません。ですが、仮にこの世界が均一で単調な場所だったとしたら、「美しさ」というものは存在しないと思うのです。

もし至る所に金閣寺があったら、皆さんは金閣寺を「美しい」と思うでしょうか。
もし世界のあらゆるビーチ、海水浴場が沖縄の海と同じエメラルドグリーンで透き通っていたら、沖縄の海を「美しい」と思うでしょうか。

少なくとも、私たちが感じる「美しさ」の中には他とは違う際立った何かがあると思うのです。それはつまり、「個性」ではないでしょうか。そして、その個性を受け入れるか受け入れないかは人によって違ってきますが、その違いも言ってみればそれぞれの人が持つ個性ということになります。

旅をしていると、私たちは本当にいろいろなものに出会います。自然であったり、誰かが造った物であったり、いろいろな人であったり。知らなかったものや初めて経験することに出会うことで、人の世界は広がりますし、自分も知らなかった新しい感性に出会うこともあります。

新しい感性に出会うことで、人は「美しさ」を感じる引出しをまた1つ増やしていくことができます。それはつまり、これまで感じなかったものの中に「美しさ」を認めることができるようになる、ということです。

そしてそれによって、自分の中の個性にも気づくことができるのではないでしょうか。

冒頭でご紹介した外国人観光客も、今は龍安寺の枯山水庭園に「美しさ」を感じなかったかもしれませんが、この先いろいろな場所を旅して振り返った時、違う感性が生まれているかもしれません。

あなたにとって「美しさ」とはどんなものでしょうか。ぜひご意見を聞かせてください!

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