旅の基礎知識

ギリシャを旅する前に知っておきたい!ギリシャ神話とオリンポスの神々のエピソード

パルテノン神殿を始めとする石造りの神殿や彫刻が魅力的なエーゲ海の国、ギリシャ。ギリシャ神話と言えばアニメや星座、物語などで私たちにとっても身近なお話で、ギリシャ神話の世界に憧れてギリシャを旅したいと思っている方も多いのではないでしょうか。
今回はギリシャの旅がより楽しくなる、ギリシャ神話とオリンポスの神々についてのエピソードをご紹介します!

ギリシャ神話の誕生

神話の意味

ギリシャ神話というと、いろいろな神様が登場して織りなす物語というイメージがあるかと思います。

まさにその通りではありますが、世界中にある神話と同じようにギリシャ神話も「世界の始まり」から「オリンポス十二神による神様の時代」そして、そこから繰り広げられる神様と人間の話といったように、人間や世界がどこから来た(生まれた)のかを体系的に説明してくれるものです。

例えば日本においても、天皇の祖先は神様であるとされ、神様の時代から神によって治世のために天皇が地上にもたらされたとするエピソードは「古事記」や「日本書紀」で紹介されています。

ですのでギリシャ神話もざっくり言ってしまえば「古事記」や「日本書紀」と同じような位置づけのものということになります。

ギリシャ神話の始まり

神様の時代からの話なので、ギリシャ神話がいつどのようにして誕生したのかは誰にも分かりません。ですが「ギリシャ」という名前が付いている通り、現在のギリシャを中心とした地域で古くから言い伝えられてきた話がまとめられたものとなっています。

世界史を遡っていくと、紀元前3000年頃にエジプトでメソポタミア文明が誕生しています。エジプトはギリシャとは地中海を挟んで真向いにあるため、ギリシャ神話の起源がメソポタミア文明にあることも否定はできません。

そこから時代を経てギリシャで最初の文明が、紀元前2000年から1400年頃にかけて、現在のクレタ島で興ったとされるミノス文明です。

さらに世界遺産にも指定されている「ミケーネとティリンスの古代遺跡群」があるギリシャのアルゴス地域には、紀元前1450年から1150年頃にかけてミケーネ文明が誕生しています。

ギリシャ神話はこれらの文明を経て、長い時間をかけて言い伝えのように人の口から継承されてきたものです。

そして日本の「古事記」や「日本書紀」と同様、ギリシャ神話が文書のような記録として誕生したのが紀元前8世紀頃、ポリス国家が誕生した時代にホメロスが書いた叙事詩「イリアス」と「オデュッセイア」、ヘシオドスが書いた「神統記」と「仕事と日々」です。

ギリシャの世界遺産でもあるアテネの有名なパルテノン神殿は、ギリシャ神話に登場する知恵の女神、アテナを祀った神殿で、この地のアテナ信仰は紀元前8世紀頃にはすでに存在していたと考えられています。

ちなみに、日本最古の歴史書とされている「古事記」が誕生したのは紀元後8世紀のこと。これだけでもギリシャ神話がいかに古くから人々の間で広く信仰されていたかがお分かり頂けるかと思います。

知っておきたいギリシャ神話①:世界の始まりと神

ガイアによるティタン族の誕生

ギリシャ神話で最高神とされるのはゼウスですが、ゼウスが天地創造の神で始まりの神というわけではありません。

上図がゼウスより前、この世界の誕生からの流れを示したものです。

まず最初にカオス(混沌)が誕生し、さらにガイア(大地)やエロス(愛)、そしてタルタロス(奈落)といったような世界のベースになる原神が誕生しました。

赤字で記載されているのが女神です。

カオスからはさらにエレポス(暗黒)やニュクス(夜)が誕生し、さらにこの二柱の神様からアイテル(上天)とへメレ(下天)が誕生。これで天・地・奈落に加えて光と闇が生まれて世界が形成されました。

そして、次にガイアが世界の住人である種族を生み出すわけですが、ここからは男神と女神の交わりによって次の種族となる神々が生まれることになります。

まずガイアは自分と交わる男神であるポントスやウラノスを生み、これらの神様と交わることで種族を生み出していきました。それがティタン族と呼ばれる神々です。

ティタン族は英語の「Titan」(巨人)の由来にもなっている通り、巨人族をイメージして頂ければ分かりやすいと思います。

ゼウスの父であるクロノスの台頭

ガイアは次々にティタン族となる神様を誕生させていきますが、なぜかウラノスはこれらの神様を毛嫌いし、生まれた神様を次々にガイアの体内に閉じ込めてしまいます。

これに困ったガイアは密かに一番末っ子の子どもだったクロノスと一計を案じ、ウラノスがガイアと交わろうとした時にクロノスが飛び出てウラノスの男性器を切断します。

これでガイアの体内に閉じ込められていた子どもの神々は解放され、ウラノスは力を失うことになり、代わってクロノスが神々の頂点に君臨することになりました。

ここで上図をもう一度見て頂きたいのですが、ウラノスから点線で「アフロディテ」が誕生していることがお分かり頂けるかと思います。

愛と美の女神であるアフロディテは、この後ご紹介するオリンポス十二神に数えられる神様ですが、クロノスがウラノスの男性器を切断した時に出てきた泡から誕生した女神でありその誕生は他の神様と少し変わっているのです。

ですがこれはヘシオドスの「神統記」に書かれている内容であり、ホメロスの書物によればアフロディテはゼウスとディオネという女神から生まれたとされています。

知っておきたいギリシャ神話②:ゼウスの台頭

父であるウラノスを退け、新たに神々の王になったクロノスですが、ウラノスは死の間際にクロノスにこんな不吉な言葉を残します。

「お前は父親である私をこのように追いつめて殺したが、その報いをいつか受けるだろう。自らの子どもに追いつめられることによって。」

この言葉を聞いたクロノスは、妻であるレイアとの間に生まれた神々を次々と飲み込んでしまいました。

次に男神が生まれると分かった妻のレイアは、この子どもは何とかして夫に飲み込まれてしまうことから逃してやりたいと考え、夫のクロノスを欺いたのです。

どうやったかというと、間もなく予想通り男神が生まれた後、レイアはオリンポス山を降りてクレタ島の洞窟にこの子どもを隠しました。そして、代わりに岩を産衣(うぶぎ)に包んで夫の元に戻り、何も知らない夫のクロノスは生まれたばかりの男神と思っているこの岩を丸ごと飲み込んだのです。

こうしてクロノスの難を逃れたこの子どもがゼウスです。ゼウスはその後、大きくなるまで密かに羊飼いによって育てられました。

やがて大人になったゼウスは母親であるレイアと共謀し、クロノスに特別な飲み物を飲ませます。

すると翌日、体調に異変を感じたクロノスは腹の中の物を全て吐き出し、これまで飲み込んだ他の兄弟の神々も一緒に出てきました。

ゼウスはレイアの一番の末っ子であり、姉と兄にはそれぞれデメテル・ヘスティア・ヘラの女神とポセイドン・ハデスの男神がいます。

クロノスのお腹の中から飛び出たこれらの神々は、その後力を合わせてクロノスとティタン族と全面戦争を繰り広げて勝利しました。

こうしてゼウスを頂点とするオリンポスの十二神の時代が始まるのです。

それにしても、親を倒したクロノスもゼウスもどちらも末っ子という共通点があり、末っ子が姉や兄を差し置いて頂点に立つというのもギリシャ神話の面白い点の一つではないでしょうか。

ギリシャへの旅では知っておきたい!オリンポス十二神の神々のエピソード

オリンポス十二神とは

さて、これまでゼウスを始めとするオリンポス十二神の時代より前のギリシャ神話のお話をご紹介しましたが、いよいよメインであるオリンポス十二神の神々についてご紹介します。

オリンポス十二神とは、ギリシャ神話に登場する数多の神々の中でもオリンポス山に住むことが許された最高位の神様のことです。

「十二神」となっていますが、十二神がその神様であるかは書物によって含める神様にやや違いがあるため、十二という数字はあまり気にせず、神様の中でも特にスゴイ神様の集まり、というイメージで考えて頂ければと思います。

ちなみに、ギリシャ神話の中でも有名な冥界の王、「ハデス」はゼウスの兄の神様ではありますが、冥界を住処としているためオリンポス十二神には数えられないことが一般的です。

ですが、ゼウスの兄であり冥界の支配者たる神であるため、ハデスについても後ほど簡単にご紹介します。

天空神ゼウス

天空神ゼウスはギリシャ神話で最高神です。その所以は先ほどご紹介した、クロノスやティタン族との戦いにおいて他の兄や姉たちをクロノスの腹の中から解放したことにあります。

実はこの戦いの最終局面で、ガイアは切り札としてテュポンという怪物を生み出し、これをオリンポスの神々に差し向けました。

テュポンは肩から千の竜の頭が生えており、目からは炎が噴き出るなどなんとも恐ろしい怪物でさすがのオリンポス神たちもこれには恐れおののいてしまいます。

オリンポスの神々を率いていたゼウスですら、一度はテュポンに敗れて洞窟に閉じ込められてしまうのですが、その後ヘルメスの助けを受けて最終的にテュポンを倒しました。

この勇敢な戦いぶりからも、他の神々から一目置かれるリーダーとしての存在となったのです。

女神アテナの誕生

ゼウスは同じオリンポス十二神の女神、ヘラを妻として迎えますがヘラ以外の多くの女性(女神・人間・ニンフ(妖精)など)との間に子どもを作りました。

特に有名なのが同じくオリンポス十二神の女神、アテナです。

ゼウスがオリンポスの庭を歩いていた時、一人の侍女に目を奪われました。名をメティス、ティタン族の娘です。

ゼウスはこの女性を執拗に追いかけまわしますが、メティスも負けじといろいろな姿に変えて逃げ回りました。

ゼウスも鷹や魚、そしてヘビに変身してとうとうメティスを捕まえます。そこでゼウスはどこからともなく次のような予言を耳にしました。

「ゼウスよ、この女性は次に女の子を産むが、その次に産む男の子によりお前は父親のクロノスと同じように、身を追われることになるだろう。」

それを聞いたゼウスはなんとメティスを丸飲みしてしまいます。

するとその午後、ゼウスはこれまでに経験したことのない頭痛に悩まされました。

あまりの痛みに我慢できなくなったゼウスは、鍛冶の神で職人を司るヘパイストスにお願いをして、木槌とノミで自分の頭を割って中身を取り出すよう命令しました。

ヘパイストスがゼウスの頭を割ったところ、中から鎧を身にまとい槍を持った女神が飛び出てきたのです。これがアテナです。

パンドラの箱

「パンドラの箱」という言葉を皆さんも一度は聞いたことはあるのではないでしょうか。

開けてはいけない禁断の箱、という意味で「パンドラの箱を開けてしまった」というと何か災いや良くないことを招いてしまったことを言います。

このパンドラというのはギリシャ神話に出てくる女性ですが、神様ではなく、見方によっては神によって生み出された最初の人間の女性、ということになります。

パンドラは、ゼウスがヘパイストスに指示し、粘土からアフロディテのような美しい風貌の女性の形を作らせたものに命を吹き込んで誕生しました。

実はゼウスがパンドラを生み出したのは、人間に罰を与えるためです。なぜ罰を与える必要があったかというと、それまで人間から取り上げていた「火」を、プロメテウスというティタン族がこっそり人間に与えてしまったからです。

プロメテウスはコーカサス山脈に連れていかれ、ヘパイストスが作った鎖で縛られ、生きたまま肝臓をハゲタカに永遠に食いちぎられるという想像するだけでも恐ろしい罰をゼウスから受けたのですが、怒りが収まらないゼウスは人間にも何かしらの罰を与えなければ気が済まなかったのです。

パンドラは命を吹き込まれた後、オリンポスの神々から様々なものを与えられて地上に遣わされます。アポロンからは竪琴の弾き方を、アテナからは糸の紡ぎ方を。

そして、最後にヘルメスから与えられたのが金の箱と「好奇心」でした。

ヘルメスはパンドラに「金の箱は絶対に開いてはいけない」と言い残します。

地上に降りたパンドラは、プロメテウスの弟であったエピメテウスに嫁いで良き妻となったのですが、何かにつけて「金の箱」が気になって頭から離れません。

それでもヘルメスの忠告通りにしばらくは箱を開けないで我慢していたのですが、とうとう好奇心には勝てずに「金の箱」を開いてしまいます。

箱を開けると中からは、熱いどこどろとしたものが勢いよく飛び出て、何か荒々しくて不吉な音と共に飛び去って行きました。

まだ箱の中には禍々しい渦のようなものが残っていたのですが、パンドラはそれを何とか箱の中に閉じ込めて再び蓋をして鍵をかけることに成功します。

ですが時すでに遅し。すでに箱から飛び出てしまったものは、病気や老い、飢えや悪意といったものだったのです。

それでは箱の中に残ったものは何でしょうか。それは「予知力」です。

人間は「予知力」が無い代わりに、将来何が起こるか分からないから「希望」を持って生きることが許されました。

もし「予知力」も一緒に箱から出ていれば、人間には「絶望」しかなかったことでしょう。

神々の女王、結婚制度の守護神ヘラ

ヘラはゼウスの妻となった神様です。

先ほどご紹介したように夫のゼウスが浮気性であるためか、ヘラはとても嫉妬深い神様としても有名です。

声を失ったエコー

ヘラの怒りを買ってしまったニンフ(妖精)のエコーをご紹介します。

エコーはとても声の美しい木の精で、神様からもかわいがってもらっていました。

ある日、エコーは森の中で他のニンフと戯れているゼウスの姿を目にします。そこに、向こう側からニンフたちを連れてゼウスを探しに来たヘラがやって来るのが見えました。

エコーはゼウスに気を使ってヘラの前に現れて、ヘラに次のように進言しました。

「つい先ほど、ゼウス様が同じようにヘラ様を探しているところを目にしました。」

これを聞いたヘラは、ゼウスも自分のことを探していると知って一度オリンポス山に戻ります。

ですが、神であるヘラはその後、エコーが自分にウソの証言をしたことを知り、怒りました。

ヘラの怒りを買ったエコーは、ウソをついた元凶である喉を潰されて声を発することができなくなり、唯一「相手が話した最後の言葉だけ声に出す」ことだけが許されました。

ヘラの罰を受けたエコーは相手の言葉の最後をおうむ返しに言うことしか出来なくなり、その後初めて恋に落ちた相手であるナルキッソスにも自分の気持ちを言葉で伝えることができず、涙に暮れてしまうのです。

海の神ポセイドン

ゼウスの兄の一人が海の神、ポセイドンです。

ゼウスによって海を分け与えられ、海の支配者として君臨していることから、ポセイドンの怒りを買うと嵐が巻き起こると言われています。

ポセイドンは海の生き物をたくさん作った神でもありますが、実は陸に住む動物も生み出した神でもあります。

その一つが「馬」です。

ポセイドンは同じくオリンポス十二神のデメテルに好意を寄せていましたが、これを煩わしく思ったデメテルはポセイドンに難題を吹っ掛けました。

それが「姿の美しい『陸の生き物』を作る」こと。

デメテルはポセイドンが海の生き物、そしてあまり容姿も美しくないものばかり作っていたことを知っていたのです。

ですが、さすがのデメテルもポセイドンが作った美しい「馬」には見とれてしまい、認めざるを得ませんでした。

冥王の神ハデス

ゼウスのもう一人の兄である神様が冥王の神、ハデス。

ハデスの有名なエピソードが、妻にペルセポネを迎えたことで巻き起こった騒動です。

季節を生むきっかけになったペルセポネ

ペルセポネはゼウスとデメテルの間に生まれた女神で、ハデスはペルセポネを一目見て気に入ってしまい、そのまま戦車で冥界に連れ去ってしまいました。

これを知ったデメテルはゼウスに頼み込んで娘のペルセポネを何とか地上に戻してほしいと懇願します。

そこでゼウスは次のように言いました。

「良いでしょう。それではペルセポネをあなたの元に帰すよう取り計らいます。ただし、娘がタイタロスの国(=冥界)にいる間に少しでも口にしたものがあれば、娘は冥界に留まらなければなりません。こればっかりは私が生まれる以前からの掟であり、どうにもならないのです。」

そのころ冥界に連れて来られていたペルセポネは悲観に浸っていたものの、ハデスの取り巻き達が何とかペルセポネの機嫌を取り繕うとし、またペルセポネもエリュシオンの庭を散歩している内に冥界での生活に居心地の良さを感じていました。

それまで冥界に来てからというもの、何も口にしていなかったペルセポネは空腹になるに連れて食べたい欲求が膨れ上がります。

エリュシオンの庭で、ペルセポネは木に実をつけた赤いザクロを見つけました。ザクロはペルセポネの大好物です。

ついに我慢できなくなったペルセポネはザクロの実を6粒、手に取って口にしてしまいます。

そこに地上からの使者がやって来たのですが、ザクロの実を6粒口にしてしまったため、ペルセポネは1年の半分を冥界で過ごすことになってしまいました。

これを知って誰より悲しんだのが母のデメテルです。

これによって、1年の半分は大地から緑が無くなる冬と、緑生い茂る夏が出来たと言われています。

知恵と戦の女神アテナ

オリンポス十二神の中で、ゼウスの他でエピソードが多いのが知恵と戦の女神、アテナです。

ギリシャの首都、アテネ(アテナイ)がこの女神に由来することはあまりにも有名ですが、そのエピソードは後ほどご紹介します。

先ほど、アテナが誕生したエピソードをご紹介しましたが、知恵の他に織物を司るアテナは様々な場面で人間の力になっています。

例えば、英雄ペルセウスがメデューサを倒しに行くときには、得意の織物の技術で空飛ぶ靴を授けました。

一方で怒りに触れると容赦ないのは他の神様と同じです。アテナの怒りを招いたアラクネという女性の話をご紹介しましょう。

蜘蛛(クモ)になった女性、アラクネ

リディアという町に、アラクネという織物がとても上手な女性が住んでいました。

どれほど上手かというと、彼女の作るマントは誰のマントよりも軽いのに、毛皮以上に暖かい仕上がりになるのです。

「私は世界一織物が上手だわ。いや、きっとアテナ女神よりも上手に織る自信もあるわ。」

アラクネは、自分の織物の腕を過信してこのような自惚れの言葉を口してしまいました。

それを聞いたアテナはアラクネにどちらの織物が優れているか、勝負を持ちかけます。

勝負の日、広場にたくさんの見物人が集まる中でアラクネは人々も思わず感嘆の声を出さずにはいられないほどの素晴らしい織物をその場で仕上げて見せます。

次はアテナの番。

アテナは雲を手に取って糸にし、世界の空から夕陽や夜空を切り取ってこれで糸に色付けをしました。そして大空を使って雲の糸を織り、それで世界の空を覆ったのです。

アテナが作り上げた織物には神話の世界が広がっていましたが、そこには神々の戦いや争いが描かれた血なまぐさいものでした。

これを見た人々は言葉も出なくなり、次第にその場を去って行き、アラクネはしばらくしてから一人森の中に入り、木で首を吊って命を絶ったのです。

何とも言えない残酷な話ですが、首を吊ったアラクネにアテナが触れると、アラクネは虫の姿に変わり、体から糸を出すクモになったと言われています。

この由来から、「アラクネ」はギリシャ語で「クモ」を意味します。

大地の女神デメテル

大地の女神デメテルはゼウスの姉であり、先ほどハデスのエピソードでご紹介したペルセポネの母でもあります。

ハデスがペルセポネを連れ去った後、ゼウスに娘を取り戻すようにデメテルは懇願したのですが、ゼウスはハデスに一目置いていることもありこれを聞き入れませんでした。

これに怒ったデメテルがオリンポス山から姿を消すと、世界の緑は枯れはててしまい、人間たちも食べ物に困って瞬く間に飢え死にしてしまいました。

さすがのゼウスもこれには困り果ててしまい、ついにはデメテルの願いを聞き入れることになるのですが、ここにはデメテルの恐ろしさも表れている気がします。

太陽の神アポロンと月の神アルテミス

アポロンと名医アスクレピオス

太陽の神アポロンと月の神アルテミスは双子の神様で、ゼウスとティタン族のレトとの間に生まれた神様です。

アポロンと言えば、人間であるテッサリアの姫、コロニスとの間に生まれた息子である名医のアスクレピオスをご紹介しましょう。

もともとはアポロンがコロニスを好いていたのですが、コロニスはアルカディアの王子であるイスキュスを愛していました。

無理やりコロニスに詰め寄り、コロニスが身ごもるとアポロンは安心してカラスを見張り役にして旅に出たのですが、その間にコロニスはイスキュスと密会。これに怒ったアポロンは妹のアルテミスに頼み、アルテミスはコロニスを射殺してしまいました。

ですがコロニスが身ごもっていた赤ん坊は立派に名医として育ち、アポロンと再会します。

息子が名医となったことに喜んだアポロンは、アスクレピオスをアテナにも会わせ、アテナはアスクレピオスに死者を生き返らせるゴルゴンの血を与えました。

アスクレピオスはゴルゴンの血を使って死者を蘇らせると、これに怒ったハデスがゼウスに頼んでゼウスの雷の矢でアスクレピオスは殺されてしまいます。

するとこれに激怒したアポロンがオリンポス山に殴り込みをかけ、暴れ回ると今度はゼウスがアポロンを冥界に追放します。

最後はアポロンの母親であるレトの泣きの一手でアポロンの追放は免除され、アスクレピオスも生き返らせてもらえることができました。

潔癖の処女神アルテミス

妹のアルテミスもなかなか気性の激しい女神です。

アルテミスは自然の中で楽しく暮らすことを好んだため、狩猟と純潔の神様として崇められています。

アルテミスは森の中をニンフを連れて歩きまわっていますが、このニンフたちにも純潔の掟を守らせています。

ある時、ニンフの中でも最も美しいカリストがゼウスに誘惑されたことを知って怒ったアルテミスは、カリストをイノシシの姿に変えて一斉に犬に襲わせてずたずたに切り裂いたのです。

この他にも入浴中のアルテミスを盗み見ていたことがばれたアクタイオンという青年が、鹿の姿に変えられてこちらも多くの犬によってずたずたに切り裂かれたというエピソードがあります。

商業と旅人、契約の神ヘルメス

ギリシャ神話の中でゼウスの使者として多くの場面に登場するのがヘルメスです。

この神様はとても機転が利き、上手くとりなすことに長けた神様でもあります。そのエピソードをご紹介します。

アポロンに竪琴を授けたヘルメス

ヘルメスは生まれてから5分と経たないうちにゆりかごを抜け出し、キレネ山を下りて牧場に出ました。すると、そこに何とも美しい白い牛を見つけます。

この牛はアポロンがとても大切にしている牛。それでもヘルメスはこの牛を盗み出してしまいます。

お気に入りの牛が盗まれたことを知ったアポロンは激怒し、犯人を探し回り、カラスの報告からヘルメスにたどり着きました。

まさか赤ん坊が牛を盗み出したことをにわかには信じられないアポロンでしたが、その聡明さを瞬時に見抜いてヘルメスに詰め寄ります。

そこでヘルメスは怯えるでもなく、次のように話をしたのです。

「アポロン様ごめんなさい。まさかあなたの牛とは知らずに盗んでしまいました。しかし許してください。というのも、この牛は私が生まれたことの祝いとしてオリンポスの十二神に捧げるために盗んだのですから。」

実はこの時、オリンポスには11の神様しかいなかったので、不審に思ったアポロンが問いただすと、

「はい、ですからこの私が12番目の神様としてオリンポス山に入るのです。」

とヘルメスは答えます。

この見事なやり取りにすっかり機嫌を良くしたアポロンに、ヘルメスは牛を盗んだお詫びとして竪琴を授けました。

ここからアポロンは音楽や竪琴の神としても祀られるようになったのです。

鍛冶の神ヘパイストス

鍛冶の神であるヘパイストスはゼウスとヘラの間に生まれた子どもですが、何といってもその外見が醜かったため母親のヘラからも嫌われ、生まれてそうそうオリンポス山から放り捨てられてしまいます。

その後ニンフに育てられたヘパイストスは再びオリンポス山に戻ることを許されるのですが、このぱっとしない神様の一番のエピソードは愛と美の女神、アフロディテを妻に出来たことです。詳しくは次のエピソードでご紹介しましょう。

ですが、このヘパイストスはパンドラを泥で作ったり、ゼウスを怒らせたプロメテウスをコーカサス山脈に縛り付ける鎖を作ったりと、さすがモノづくりの神様として多くの活躍をしている神様です。

愛と美の女神アフロディテ

先ほどご紹介したように、愛と美の女神アフロディテの誕生は他のオリンポスの神々とは少し違って特徴的です。そして何より、どの神様よりも豊富なエピソードを持っています。

生まれたばかりのアフロディテはまずポセイドンによってキュテラの島に連れて行かれましたが、フロディテが歩いた場所には花が咲き乱れ、空には小鳥たちがたくさん舞うようになりました。

そしてゼウスがアフロディテをオリンポスに連れて行き、そこで結婚の相手を選ばせることにしました。

美しい女神にどの神様も積極的にアピールして求婚しましたが、アフロディテは微笑むだけで何も言いません。

最後にヘパイストスの番が回ってきました。ヘパイストスはこう言ったそうです。

「あなたのような女性にふさわしい、よい夫になります。そしてよく働きます。」

これを聞いたアフロディテは何も言いませんでしたが、ヘパイストスに近寄り唇に接吻し、ここにヘパイストスの妻となったのです。

なぜアフロディテがヘパイストスを選んだのか。

それは他の神様がアフロディテに素晴らしい権力や貢物を約束したが、あくまでも「授ける」立場を崩さなかったのに対し、ヘパイストスだけはアフロディテのために献身的な身になる事を約束したからではないでしょうか。

 

次回はギリシャ神話と関係の深いギリシャの場所や有名スポットをご紹介します!

 

(参考:「はじめてのギリシャ神話」松村 一男 ちくまプリマ―新書、「ギリシャ神話 神々と英雄たち」バーナード・エブスリン 現代教養文庫)

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