世界遺産の楽しみ方

【世界遺産】富士五湖(河口湖、山中湖、西湖、精進湖、本栖湖)を100倍楽しむためのマメ知識4選

世界遺産にも登録され、日本だけでなく世界の人々からも親しまれている日本のシンボル、富士山。登録されている構成遺産は25個にも及ぶことを皆さんはご存じでしょうか。その中には、いわゆる「富士五湖」と呼ばれている5つの湖(河口湖、山中湖、西湖、精進湖、本栖湖)も含まれています。
今回はこの富士五湖に関するマメ知識をご紹介します!

【世界遺産】富士山と水

富士山はいつできた?

その雄大で均整の取れた姿に思わず見とれてしまう富士山。地元に住んでいる方以外は、新幹線の車窓などからその姿を見るだけの場合がほとんどかもしれませんが、富士山のふもと、静岡県や山梨県を訪れると、富士山の圧倒的な存在感を強く感ることができます。
そして、昔から日本人が富士山を信仰し、また畏れ多い存在として崇めてきたことも良く分かる気がします。

今私たちが見ている富士山は、1万年ほど前に誕生したと考えられています。1万年というと途方もなく昔のことのように思いますが、世界の火山で見てみると実は富士山は、まだ若い山の部類に入るそう。

火山である富士山は誕生してから幾度となく火山活動を起こし、そのたびに溶岩流やスコリア(小さく穴がたくさんある小岩のようなもの)、火山灰を噴出させてきました。溶岩流が山肌を流れて覆い、それを繰り返すことで今の姿と大きさになったわけですが、例えば学校で習った関東ローム層には富士山からの火山灰も含まれており、東京や関東に住む私たちも富士山の噴火による影響を受けているのです。

豊かな水に恵まれた富士山

富士山はよく、「火と水の山」と評されることもあります。「火」というのは火山である富士山の姿ですが、「水」というのはどこから来ているのでしょうか。

皆さんは1年で富士山にどのくらいの雨が降るかご存じでしょうか。

その量はなんと、年間22億トン!
桁と単位が多すぎてその量を想像するのも難しいぐらい、途方もない数字なのですが、豊かな降水量に恵まれていることが「水の山」と言われる所以です。

今回ご紹介する富士五湖の他にも、同じく構成遺産に登録されている白糸の滝や忍野八海、富士山本宮浅間大社にある湧玉池など、富士山のふもとには豊かな水と関係する景勝地が数多く存在しているわけですが、これらの景勝地は、富士山に降った雨が地下にしみ込み、それが地表に湧き出てできたものなんです。

富士山と水

先ほど、富士山は比較的若い山であるとご説明しました。

富士山に登られた方ならお分かりかと思いますが富士山には常に水が流れている川(恒久河川)というものがありません。一般的な山や山登りをイメージすると、山間部や山の中に小さな小川が流れている姿を思い浮かべますが、富士山はそのような山とは少し違います。

それでは富士山に降った水はどこに消えていくのでしょうか。

簡単に言ってしまえば、富士山に降った雨水は地下深くにしみ込み、そのまま地下を通って山のふもとまで流れ落ちたり、湧水として地表に噴出しているのです。

富士山は1707年に「宝永の大噴火」と呼ばれる大規模な火山活動を行って以来、今に至るまで300年ほどは不気味なほど静かな状態が続いていますが、これまでの歴史の中で幾度となく活発で多様な火山活動・噴火を行ってきた山なんです。

その1つに、約17,000~18,000年前に大量の溶岩流を流出させた噴火活動があります。この時山肌に流れ出た溶岩流は玄武岩溶岩と呼ばれている種類の溶岩なのですが、実は玄武岩溶岩というのは日本の本州にある山の中でも富士山でしか見られないものなんです。
というのも、玄武岩というのは通常海洋火山の特性を持ち、内陸では見られないためです。

この玄武岩が冷えて固まるとき、中央部分はじっくり時間をかけて凝固するのに対し、下と表層部分は急速に冷やされるため、固まるときに多くの隙間ができます。

このため、現在の富士山の山肌を覆っている玄武溶岩に雨が降ると、水はその隙間を通って地中にしみ込んでいくというわけです。
富士山のように若い火山の場合、表面を覆う堆積物には隙間が多くあることから、地面に降った水がこの隙間を通って地下にしみ込みやすいということもあります。

【世界遺産】富士五湖の成り立ち

今回ご紹介する富士五湖も先ほどご紹介した、富士山の噴火によって流れ出た溶岩流と豊富な湧水によって成り立っている湖なんです。それを詳しくご紹介していきましょう。

富士五湖の位置と溶岩流の跡

出典:富士砂防事務所HPより 「富士山の基礎知識-富士山の湧水のメカニズムを探るvol.2」http://www.cbr.mlit.go.jp/fujisabo//fuji_info/mamechisiki/c04/index.html

上の図は、富士山の溶岩流が流れたルートと湧水の位置を表したものです。少し見にくいですが、富士五湖と呼ばれている本栖湖、精進湖、西湖、河口湖、山中湖はすべて富士山の北の山麓に位置しており、しかも溶岩流が流れ出た山のふもとにあることが分かります。

また、富士五湖の中で、湖の外に河川などで自然流出があるのは山中湖のみで、他の湖は、人工的に発電などの目的で流出入の仕組みを作っているものの、元は自然流出・流入が無く完全に孤立した湖であることをご存じでしょうか。

このことからも富士五湖は富士山の湧水により出来ていることが分かるかと思いますが、その湧水は富士山の地中にしみ込んだ後、地中を通って溶岩流の末端である裾野から湧き出ているため、富士五湖が今の位置にあるというわけです。

溶岩流のせき止めで出来た富士五湖

もともと今の富士五湖ができる前、そこにあった湖に大量の溶岩流が流れることで湖が分断され、今の富士五湖の姿になったと考えられています。

出典:富士砂防事務所HPより 「富士山の基礎知識-富士山噴火の歴史を物語る個性豊かな湧水湖」http://www.cbr.mlit.go.jp/fujisabo//fuji_info/mamechisiki/c04/index.html

上の図は溶岩流が湖をせき止める前と今の富士五湖を表したものです。こちらを見ればお分かり頂けるように、もともと現在の西湖と精進湖は「剗の海」という一つの湖でしたが、そこに大量の溶岩流が流れ込んだことで今の西湖と精進湖に分かれました。

同様に、今の忍野八海と山中湖があった場所はもともと宇津湖という湖があったのですが、この宇津湖は長い時の中でやがて干上がってしまい、その後溶岩流が流れていた川をせき止めたことで山中湖が誕生しました。

 

このように、富士五湖は実は富士山とその火山活動があって生まれた湖であり、その意味では富士山の一部と言える存在であることがご理解頂けたかと思います。

それでは富士五湖(本栖湖、精進湖、西湖、河口湖、山中湖)について詳しくご紹介していきます。

【世界遺産】富士五湖(本栖湖、精進湖、西湖、河口湖、山中湖)

富士五湖の基本情報

富士五湖の成り立ちでご紹介したように、富士五湖(本栖湖、精進湖、西湖、河口湖、山中湖)は富士山とその火山活動で生まれた湖という点では共通していますが、それぞれの湖は少しずつ違った特徴を有しています。

まずは5つの湖の大きさなど、データにまとめたものをご紹介します。

山中湖河口湖西湖精進湖本栖湖
緯度(N)35°25’35°31’35°30’35°29’35°28’
経度(E)138°52’138°45’138°41’138°37’138°35’
標高(m)981.5832.0901.5901.0900.5
湖面積(㎢)6.7805.7002.1200.5104.700
最大水深(m)13.314.673.215.2121.6
平均水深(m)9.49.338.57.067.9
容積(km³)0.0650.0560.0840.0350.328
湖岸線長(km)14.021.09.96.812.0
長軸(km)6.06.24.02.84.1
最大幅(km)2.01.61.10.62.0
肢節量1.491.901.852.461.33

いかがでしょうか。5つの湖は地球規模で見た場合ほぼ同じ経度・緯度にあることが分かります。
また、大きさとしては山中湖が一番大きいものの、水深で見ると本栖湖が山中湖の9倍以上の深さがあるため、容積(水の量)で見ると本栖湖が一番多くの水を蓄えている、ということになります。

西湖・精進湖・本栖湖は湖底で繋がっている?

ここで1つ注目すべきは、西湖・精進湖・本栖湖の標高です。上記の通りこの3つの湖の標高は約900メートルとほぼ同じ標高になっていますが、これは先ほどご紹介した通り、西湖と精進湖が元は「剗の海」(せのうみ)という1つの湖であり、本栖湖と「剗の海」もさらに昔は「古剗の海」という1つの湖で、溶岩流により2つに分離された湖と考えられているためです。

出典:富士砂防事務所HPより 「富士山の基礎知識-富士山噴火の歴史を物語る個性豊かな湧水湖」http://www.cbr.mlit.go.jp/fujisabo//fuji_info/mamechisiki/c04/index.html

分かりやすいように富士五湖の標高と水深、大きさを一覧にしたものが上記の図になります。(標高に関しては出典情報が異なるため、先ほどの表の記載と誤差がございます。)

この西湖・精進湖・本栖湖は、元をたどると1つの湖だったということもあり、実は湖底でつながっているのではないか、と言われています。これが事実なのかは定かではありませんが、この3つの湖は常に水深が一定に保たれているともいわれており、西湖から発電のために水が放出されて水深が下がると、それにつられて精進湖・本栖湖も水深が下がることが確認されています。

富士五湖の詳細

それではそれぞれの湖の特徴を順にご紹介していきます。

山中湖

湖面積が富士五湖の中で最も大きく、また最も標高の高い場所にあるのが山中湖です。その意味では「富士山に最も近い湖」と言えるでしょう。
また、富士五湖は溶岩流のせき止めで出来た湖ということもあり、湖に繋がっている河川はほとんどありません。唯一、湖から外に一級河川の相模川(桂川)で繋がっているのも、山中湖の特徴と言えます。
ちなみに、富士五湖には、16本(山中湖:2、河口湖:9、西湖:4、精進湖:1、本栖湖:0)の小河川が湖に流れ込んでいるものの、その水量はわずかで、湖の水のほとんどが富士山の湧水から形成されています。

観光・リゾート地としても山中湖周辺は人気のスポットになっており、「ダイヤモンド富士」の鑑賞や、徳富蘇峰・三島由紀夫といった文人ゆかりの資料館などの観光スポットもあります。

河口湖

富士五湖の中では最も湖岸線が長く、また最も標高の低い場所にあるのがこの河口湖。標高が低い場所にあるためか、富士五湖の中でも早くから観光開発が進んだ湖であり、観光スポットやホテルも数多く立ち並び、富士五湖でも賑やかな湖と言えます。

その他の河口湖の特徴として、2か所の湖嶺によって3つの湖盆に分かれており、湖のほぼ中央には富士五湖で唯一の島である鵜ノ島があることでも有名です。鵜ノ島には鸕鷀嶋神社(うのしまじんじゃ)があり、水の神、豊玉姫命(トヨタマヒメノミコト)が祀られています。

西湖

富士山のふもとに広がる樹海の中にあるためか、西湖から富士山が見える範囲は限られています。そのため、富士五湖の中では最も静かな湖と言われ、「乙女湖」とも呼ばれています。

西湖には青木ヶ原樹海の散策ルートも整備されており、溶岩洞窟である「西湖コウモリ穴」や「竜宮洞穴」といった見どころもあることからトレッキングコースとして親しまれています。

精進湖

富士五湖の中で最も湖面積が小さいのが精進湖です。また、河口湖は灌漑用水と発電用水、本栖湖は発電用水としてそれぞれ湖外へ水が流出、西湖も発電に利用した水が再び河口湖へ放出されるなど、水の動きがあるものの、精進湖のみが完全に出入りが無い湖となっています。

そのためか、透明度は富士五湖の中では最も低く、一方で水質は最も栄養素を含んだものとなっています。

「逆さ富士」や富士山の手前にある大室山を富士山が抱いたように見える「子抱富士」の撮影スポットとして人気です。

本栖湖

富士五湖の中で最も水深が深く、容積が最も大きいのがこちらの本栖湖。写真をご覧頂くとその青さが際立って見えますが、富士五湖の中でも最も透明度の高い湖としても知られています。

富士五湖と富士山の風景の中でも、この本栖湖からの富士山が私たちに最も馴染みのある風景であることはご存じでしょうか。というのも、旧五千円札、そして今の千円札にデザインされている富士山はこの本栖湖からの風景を撮影した岡田紅陽さんの「春の湖畔 本栖湖」を元に印刷されたものです。

富士五湖が世界遺産に登録された理由

信仰の対象としての富士五湖

最後に、富士五湖が世界遺産の構成遺産として登録された理由を探ってみましょう。富士山が世界遺産として登録された正式な名称は、「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」となっており、「信仰の対象」と「芸術の源泉」の2つの要素が入っていることが分かります。

まずは信仰の対象から見ていきましょう。詳細は別の記事でご紹介していますが、古来から日本人の中には「富士信仰」という思想が培われてきました。

これは、日本人の自然に対する信仰と仏教が組み合わさった神仏習合の思想と、その信仰の対象として富士山が古くから崇められてきたことを示しています。

実は「富士五湖」という呼び方は比較的近代に入ってから付いた呼び名であり、それとは別に、江戸時代から一般市民にも広がった「富士講」という巡拝の中で「富士八海」という言葉があります。

富士八海とは、富士五湖に明見湖(あすみこ)、泉津湖(せんづこ)、四尾連湖(しびれこ)を加えたもので、それぞれに法華経の守護神である「八大龍王」が祀られていると考えられていました。

このため、富士五湖は古くから富士講による巡拝の地として、富士信仰の対象だったと言えます。

芸術の源泉としての富士五湖

それでは富士五湖と「芸術の源泉」はどうでしょうか。これまでも少しご紹介してきた通り、富士五湖ではそれぞれ違った富士山の姿を楽しむことができ、広く日本人のみならず海外の人にも「富士山と湖」の組み合わせは親しまれてきました。

さらに、それぞれの湖が文学作品や歌で詠まれるなど、文学人からも親しまれてきた富士五湖。

富士山の均整の取れた姿だけでなく、美しい湖と自然が織りなすその姿は美術の分野でも多くの芸術家のインスピレーションを刺激してきたことは皆さんもご存じのことと思います。

構成遺産上の違い

最後に、富士五湖はすべて世界遺産に登録されているものの、山中湖と河口湖は独立した構成資産となっていますが、西湖・精進湖・本栖湖は「富士山域」の一部として登録されており、両者で登録のされ方に違いがあります。

その理由は以下の2つによるもの。

・地理的に山中湖、河口湖は富士山と離れており別個の存在として考えられている
・本栖湖は重要な展望地点であるので、湖から富士山体へ続く展望線は登録範囲になるとともに、西湖・精進湖も青木ヶ原溶岩流で形成された本栖湖との自然的な一体性があるので、3つを一体として考える

 

いかがでしたでしょうか。富士五湖(河口湖、山中湖、西湖、精進湖、本栖湖)を訪れる際は、ぜひこの記事の内容を思い出してよりそれぞれの湖を楽しんでみてください!

 

(参考:「富士山を知る事典」富士学会企画 渡邊定元・佐野充 編 日外アソシエーツ)

 

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