奈良の世界遺産の1つに数えられている春日山原始林。
東大寺や春日大社などに目が行きがちですが、世界遺産の春日山原始林にいくつかのハイキングコースがあることはご存知でしょうか。道も整備されていて、誰でも気軽に楽しむことができます。
今回は世界遺産でありながら、その神秘な自然を身近で感じることができる春日山原始林のハイキングコースを詳しくご紹介!
【世界遺産】春日山原始林ってどんな場所?
春日大社とともに「古都奈良の文化遺産」として世界遺産に登録されている春日山原始林。その名前の通り、奈良の世界遺産の中でも唯一自然そのものとして構成遺産になっています。
ただし、「古都奈良の文化財」としての世界遺産の1つであるため、春日山原始林はあくまでも文化遺産としての区分です。なぜ文化的な遺産と見なされているかと言えば、この場所が古代から日本の人々にとって深い信仰の対象として崇められていたためなんです。
春日大社は春日山原始林への信仰を神社という形にして、人々の神への信仰や儀式を行う場所として具現化したものと言えるかもしれません。
詳しく知りたい方は、下記の記事もご一読ください。
春日山原始林の概要
春日山原始林は標高が498メートル、その広さは約25ヘクタールとなっています。東京ドームでいえば約5.3個分ぐらい。
広いとみるか、案外コンパクトと感じるか人それぞれ捉え方が違うかもしれません。
古来より、春日大社の神山として深い信仰の対象であったため、9世紀には木々の伐採も厳しく禁じられていたなど昔から大切に守られ、原始林としての姿を残してきた場所でした。
ハイキングコースはある程度整備されているのでそれほど感じませんが、原始林はうっそうと太い木々が生い茂っており、常緑の広葉樹であるカシやシイのほか、暖地性の植物である蔓性植物やシダ植物も多く生息しています。そして、暖帯性植物と寒帯性植物の両方が共存しており、約800種もの植物がこの原始林を形成しています。
植物だけでなく、多種多様な鳥・動物・昆虫が生息していることも魅力の1つと言えるでしょう。
ただし、厳密な意味での原始林ではなく、歴史の過程で人の手が加えられた時もありました。例えば、16世紀には豊臣秀吉により約1万本のスギが植栽されたり、台風で甚大な被害を受けた後に回復を早めるため、人の手で在来種を植えたりするなど、人の手も少し加えられています。
【世界遺産】春日山原始林ハイキングコースの概要
春日山原始林ハイキングコースと言っても、実はいくつかのコースが用意されていてそれぞれに見どころがあります。
大きく分けると、春日山遊歩道と柳生街道(東海道自然歩道)が一部で重なるように整備されており、また山々の間に新若草山ドライブウェイが走っています。
今回ご紹介するハイキングコースは、春日山遊歩道です。
春日山原始林ハイキングコース(春日山遊歩道)プロフィール
春日山原始林のハイキングコースは、実はグーグルマップでも確認することができます。
地図を開いてみましょう。春日大社の近くにある水谷神社と、志賀直哉旧亭と新薬師寺の間の道を東側に進んだ辺りから、青緑色の点線が出ているのに気づくかと思います。
この点線が春日大社の東側までずっと延び、ドライブウェイ辺りまで続いているのがお分かり頂けるかと思いますが、この道が今回ご紹介するハイキングコース、春日山遊歩道です。
①入口までのアクセス
春日山原始林のハイキングコースは、春日大社の奥にある原始林をぐるっと一周回るコースで、南側と北側の2の入口があります。
筆者のおすすめは南側の入口からスタートして北側に出る周り方です。こちらをおススメする理由は2つ。
1つ目は、若草山にも抜けられるので、ハイキングコースの終わりに若草山でのんびりと時間を使うことができます。長い道のりで足も疲れたところでもうひと踏ん張りして若草山に登り、そこから奈良の街並みを一望したり鹿と戯れたりすると疲れもあっという間に吹っ飛んでしまいます。
2つ目は、北側入口の先には茶屋やお店があるため、食事を取ることもできるし、そのまま春日大社の本殿に向かうことも可能です。
JRもしくは近鉄奈良駅から南側の入口までのアクセス方法は下記の通りです。
・遊歩道入口(南)は奈良交通バス「春日大社本殿行」で終点下車、徒歩約10分。
・「市内循環バス」で「破石町」下車、徒歩約10分。
②距離と所要時間
春日山原始林のハイキングコースは、主な見どころを含めて周るとだいたい10キロメートルほどのルートになります。途中のトイレ休憩など休憩時間を除くと、ゆっくり歩いても4時間はみておいた方が良いでしょう。
途中の休憩で少し休むことを考えると、これにプラス30分~1時間といったところでしょうか。計5時間として、朝の10時にスタートしても午後3時にはゴールに到着できるので、それほど早起きは必要ないかもしれません。
ですが、秋から春にかけて特に陽が早く落ちる時期には、暗くなってしまう前、なるべく日の入り前にはゴール地点に到着するようにしましょう。歩道が整備されているとはいえ、自然の中を歩くので、体調や天候、時間的に無理な行動はくれぐれも慎んで余裕を持って楽しむようにしてください。
③服装と持ち物
歩道は整備されているので本格的なトレッキングシューズなどの装備は必ずしも必要ではありませんが、サンダルやハイヒールなど長時間の歩きに適していないものはもちろん控えたほうが良いです。
また、夏場であっても長袖、長ズボンをおススメします。一部山の中に入る道があり、草木や岩場など多少歩きづらい場所があることや、ハチなどの昆虫が活発に活動しているためです。
さらに、前日が雨の場合は土が柔らかくなってぬかるんだ場所もあるので、多少泥やなどで汚れても良い服装で臨みましょう。
途中に自販機はもちろんありませんので、十分な水分を確保できるように飲み物は持っていくようにしてください。そのほか、手軽に羽織ったり脱いだりできて温度調節ができるジャンパー等もあった方が良いかもしれません。
【世界遺産】春日山原始林ハイキングコースの見どころ
それでは春日山原始林のハイキングコース全貌をご紹介します!
南側の春日山遊歩道入口からスタートします。
先ほどご紹介した「春日奥山案内図」の立て看板写真は入口付近に立てられています。道はほとんど一本道で、要所では案内の目印も立っているので迷う心配はあまり無いと思います。念のため看板の地図をスマホや携帯で写真を撮っておき、確認したいときに見るぐらいで十分でしょう。
春日山原始林のハイキングコース(遊歩道)はこのような道が続いていきます。整備されており普通の道路と同じ感覚で歩けますが、時折車やバイクも通ることがあるので気をつけてください。
妙見宮
南側の入口から入って進んで行くと、まず辿りつくのがこちらの妙見宮です。
この妙見宮は日蓮宗の修行場として創建されたようで、入口から長い石段が続いており、途中に安産や子育て祈願として有名な鬼子母尊神堂があり、一番上の本堂まではかなりの段数を登る必要があります。
体力を温存されたい方はほどほどに散策して先に進むのが良いかもしれません。
最初の石段を登るった先には、修行場?のような建物と道を挟んで向かい側にも小さな小屋があります。その先には上に石段が続いています。
三本杉休憩所
しばらく歩みを進めると、道沿いに三本杉休憩所があります。南口から出発した場合、まだ休憩をするほどではありませんが、季節によって、またはゆっくりと時間を気にせず自然の空気を味わいたい場合は少し腰を落ち着けるのも良いかもしれませんね。
この春日山原始林ハイキングコース(遊歩道)は、山々に囲まれた場所を歩いているので見晴らしや眺めが良い場所というのはほとんどありません。
一瞬だけ、三本杉休憩所を過ぎた後に山々の隙間から奈良市の街並みがうっすら見える場所がありました。
南側の入口は、実は春日大社の参道の出口の1つからかなり近い場所にあるのですが、さっきまで春日大社の参道を歩いてきたのに、ものの数十分でこのように街中が遠く感じられる山の中にいることが少し不思議に感じるかもしれません。
首切地蔵
南側入口から3.0キロ
道を進んで行くと、写真のように道から外れて下の方に下っていく道が現れます。
春日山原始林ハイキングコース(遊歩道)の道はこの下っていく道ではなく、太い道をまっすぐに進む方向にありますが、写真の脇道を下った先には見どころもたくさんありますので、時間に余裕がある方はぜひ脇道を降りてみてください。
下りた先にあるのがこちらの首切地蔵。
その昔、荒木又右衛門がためし斬りをしたと伝えられていることからこの名前が付いたそうです。それにしても、地蔵をためし斬りするなんて、バチが当たりそうで怖いですね。。
良く見ると、お地蔵様の首のあたりからきれいに横に切れ目が入っているのがお分かり頂けるかと思います。
ちなみにこの荒木又右衛門、筆者は恥ずかしながらその名前を知らなかったのですが、調べてみると江戸時代の剣豪として有名なようで、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
一方、地蔵は鎌倉時代の創作と考えられているようです。鎌倉時代と言えば今から800年近くも前の時代、そんな昔に造られたものが山の中に今もぽつんとあることからも、春日山原始林の歴史の長さを感じます。
首切地蔵のすぐそば、遊歩道から下ってきた場所には写真のように休憩スペースとトイレがあります。休憩スペースの柱には記念のコメントが自由に記入できるノートがぶら下がっているので、ここを訪れた記念にコメントを残してみてはいかがでしょうか!?
地獄谷新池
首切地蔵をさらに奥に進んだところにあるのがこちらの地獄谷新池。
残念ながらこの日は曇り空だったため、少し薄暗い感じがしますが、暖かくて晴れた日などは池のほとりにある木の椅子にゆっくり座ってのんびりしてみたいです。
ちなみに、首切地蔵からこの地獄谷新池、次にご紹介する春日山石窟仏と地獄谷石窟仏の道は少し整っていない山道になるので、ぬかるみなどに気をつけてください。また、首切地蔵からこれらのスポットをぐるっと回って元の場所に戻ってくることが可能です。
春日山石窟仏
地獄谷新池から200メートルほどの場所にあるのが春日山石窟仏。ですが、残念ながら2019年3月現在、台風の影響で木々で道が埋まってしまい、立入禁止のロープが張られていました。。
地獄谷石窟仏
首切地蔵から0.9キロ
春日山石窟仏からいったん新若草山ドライブウェイに出るか、もしくは地獄谷新池の反対側を周って少し登り、同じくドライブウェイの道路を挟んだ先の山道を進んだ奥にあるのが、こちらの地獄谷石窟仏です。
自然を利用して描かれた仏様の姿、しかも今でも色鮮やかに残されている姿には感動せずにいられません。
向かって右側が十一面観音像、中央が盧舎那仏、そして左側が薬師如来像だそうで、造られたのはなんと奈良時代!一説には弥勒仏は石で造られることから、中央の盧舎那仏は弥勒仏とする説もあるそうです。
ちなみに、地獄谷石窟仏への道は少し険しくなっています。台風の影響なのか、大きな木が横向けに倒れていたり、少し岩場を登る必要があるので、くれぐれも足を滑らしたりしないようにお気をつけください。
春日山原始林ハイキングコース(遊歩道)から少し外れますが、首切地蔵から地獄谷石窟仏までの一連のスポットはぜひ見て頂きたいと思います。
ちなみに、首切地蔵→地獄谷新池→春日山石窟仏→地獄谷石窟仏→地獄谷新池→首切地蔵と一周回ると、距離としては2キロ程度になります。
体力と時間の余裕を考えてプランを組んでみてください!
芳山交番所
南側入口から3.9キロ
首切地蔵からもとの春日山原始林ハイキングコース(遊歩道)に戻り、少し進んで行くとこちらの交番に出ます。
ここまではやや上りの道が続いていましたが、ここから先は下りの道が多くなってきますので、少し足の運びも楽に感じると思います。
春日山遊歩道を歩いていると、ダイナミックさは無いのですが水が清く流れている場所を多く見かけます。ちょうどこの日は前日に雨だったこともあったのかもしれませんが、命の水の豊かな山々であることを感じます。これも神々の山として信仰を集めてきたゆえんかもしれないですね。
世界遺産記念碑
南側入口から5.2キロ
交番から下り道をしばらく歩いていくと、真っ赤な橋が架かったそばにひっそりと世界遺産の記念碑が立てられています。
この石碑を見ると自分が世界遺産に立っている実感を持つことができるので、こちらもチェックポイントとしては重要な場所になります。
ちなみに、橋を渡った先、約700メートルの場所に鶯の滝があります。こちらも滝を間近で観ることができるので、体力に余裕があればぜひ立ち寄ってほしいところです。
鶯の滝
南側入口から5.9キロ
こちらが鶯の滝!もっと近くまで近寄って観ることもできます。
この滝は少し長い石段を下りたところにあります。今回はその石段を上がって先ほどの橋まで戻ったのですが、滝の下にも道が続いており、おそらくその先を進んでももとの春日山原始林ハイキングコース(遊歩道)に戻ってくることができそうです。
鶯の滝へ下りていく石段のそばにもこうして水が流れ落ちています。せっかく世界遺産の原始林を訪れているので、ハイキングコースの道は平たんですが、そこから見える自然の姿をいろいろ楽しんでみてください。
歓喜天/興福寺別院
鶯の滝へ下りる石段へと続く道沿いの反対側には、歓喜天/興福寺別院へと続く上りの石段があります。
こちらを上っていってみましたが、残念ながらこちらにあった神社は老朽化のために取り壊されてしまったようです。
ひっそりと残された鐘楼のような建物が残されていました。これだけではこの場所がどんな場所だったのか、残念ながら知ることは難しそうです。
春日奥山最大の山桜
春日山原始林ハイキングコース(遊歩道)に戻って、北の入口まであともう少し!
道を歩いていると、道をまたいでひと際大きく枝を伸ばしている木があります。こちらはこの春日奥山最大の山桜です。こうしてみると迫力がありますね。
桜の花が開花するときはどんな姿なのでしょうか。
花山 地蔵の背
こちらは道端に供えられた4つの石に刻まれた仏様の姿。右から2つ目は、残念ながらお顔から上が失われています。
十八丁休憩所
少し歩くとこちらの休憩所があります。無理はせずこまめに休憩して先に進みましょう。
三又路
北口までもう少し、三又に道が分かれている場所に出てきました。ちなみにこの写真は北口側から撮ったもので、写真奥の右側が来た道、左側が若草山山頂に続いていく道です。せっかくなので若草山山頂を訪れたことのない方は、もうひと踏ん張りして若草山の方にも足を運んでみてください。
北側入口
南側入口から9.7キロ
ついに到着!北側の入口に辿りつきました。
この入口をまっすぐ下りていくと、水谷神社に辿りつき、そこから春日大社の本殿にも行くことができます。
長い春日山原始林ハイキングコース(遊歩道)の疲れを癒すために、川沿いにある水谷茶屋で一服するのも良いですね!
いかがでしたでしょうか。
整備された道で歩きやすく、気軽に世界遺産の神聖な雰囲気と自然に触れることができる春日山原始林ハイキングコース(遊歩道)。ぜひ奈良に訪れる際は、こちらのハイキングコースもプランの1つに入れてみてください!