世界遺産の楽しみ方

【世界遺産】古都奈良の文化財を楽しむために知っておきたいマメ知識7選

日本の世界遺産の1つ、「古都奈良の文化財」は合計で8つの構成遺産からなる奈良の世界遺産です。

東大寺や春日大社など、個別の構成遺産の素晴らしさは別の記事で1つずつご紹介するとして、今回はこれらをまとめて1つの世界遺産としている背景についてお話します。

・なぜ奈良の多くの寺社の中から選ばれたのか?
・それぞれの構成遺産の共通点は?
・伽藍に見られる共通点は?
・屋根にも注目!

これを読めば、奈良の世界遺産をより深く味わうことができるようになります!

1.世界遺産の概要

東大寺大仏殿

「古都奈良の文化財」として世界遺産に登録されている、奈良県の世界遺産。

この名称は、同じく世界遺産に登録されている「姫路城」のように、特定の遺産を示しているのではなく、いくつかの遺産をまとめた呼び名となっています。

具体的には、以下の8つの遺産で構成されています。
・東大寺
・薬師寺
・唐招提寺
・興福寺
・元興寺
・平城宮跡
・春日大社
・春日大社原生林

簡単に言ってしまうと、この8つの遺産が1つのグループとして登録されているわけですから、そこにはいくつかの共通点があるということになります。

今回は、この8つの遺産の中で、平城宮跡・春日大社・春日大社原生林を除いた5つの寺社を中心に、この世界遺産を楽しむうえで知っておきたい事項をいくつかお話ししたいと思います。

2.世界遺産の舞台は奈良時代

まず1つ目の共通点として、この8つの構成遺産は、奈良時代を代表する寺社仏閣であることです。

奈良時代とは、710年に奈良の平城京に都が置かれてから、京都の長岡京もしくは平安京に遷都されるまでの70~80年余りを指します。

地図を見ていただければよく分かりますが、これら8つの構成遺産の場所はすべて奈良市内にあり、密集していることが分かります。

なぜこれほど密集しているのか、そこには2つの理由が隠されています。

順を追ってお話ししましょう。

3.8つの構成遺産の考え方

1つ目の理由をお話しする前に、8つの構成遺産を並列に見るのではなく、これらをさらに以下のようにグルーピングすると、より全体像が明確になります。

①平城宮跡
②薬師寺、興福寺、元興寺
③東大寺、唐招提寺、春日大社、春日大社原生林

奈良時代、都として栄えた平城京。当時の政治、文化、すべての中心がこの平城京にありました。

そう考えると、都そのものの遺産である平城宮跡が、8つの構成資産の土台となります。
(ちなみに、平城宮跡、といっても現在その場所はだだっ広い野原になっていて、2017年5月現在、当時の面影を復旧した朱雀門と大極殿のみ再現されています。)

次に、この平城京の都営が行われた当初から建立が決まっていたのが、上記の②薬師寺、興福寺、元興寺になります。

なぜ決まっていたかというと、これらのお寺は平城京遷都前にすでに造られていたお寺を、遷都に合わせて平城京に移管して建てたお寺だからです。

そして、残る③東大寺、唐招提寺、春日大社は平城京遷都後に建立された寺社ということになります。(春日大社原生林は自然のため、除外)

このようにグルーピングすると分かりやすくなりますよね。

4.8つの構成遺産は平城京内に存在

さて、本題に戻りましょう。

平城京遷都前から建立されていたか、遷都後に建てられたかという違いはあるものの、これらの寺社はすべて、平城京内に存在しているという共通点があります。

平城京概略図

上図のように、平城京は、天皇が公務や儀式を執り行っていた大極殿を中心に、右京と左京に区分することができますが、世界遺産となっている寺社はそのどちらにも点在しています。

東大寺と春日大社については、上図では外京に位置していますが、これらは平城京遷都後に建立された寺社であり、東大寺は西の西大寺と対になる存在であることから、平城京の一部として捉えています。

それではなぜ、このように平城京内に世界遺産を含めた多くの寺社が造られたのでしょうか。

5.護国宗教としての仏教が中心だった奈良時代

薬師寺:食堂

中国から日本に伝えられた仏教。この仏教が日本で確固たる地盤を持ち、広がることになったのが奈良時代でした。

なぜ奈良時代だったのでしょうか。

それは、簡単に言ってしまえば、当時の権力者、天皇が仏教の力で国の安泰と発展を実現しようとしたからです。
つまり、国を統治し、発展させるために仏教の教えとその力に頼った、ということになります。

このように、国の安泰と発展のために宗教の力を取り入れることを、護国宗教と呼びます。

世界遺産の中でも、薬師寺は持統天皇が、東大寺は聖武天皇が建立しました。
また、世界遺産には含まれていませんが、東大寺とは対の存在である西大寺も弥徳天皇の企画により建立されたお寺になります。

ようやく国家の形が作られ始めた奈良時代。寺社を造る財力や人手を考えると、権力を持つ者しか造ることが叶わなかったことは想像に難くありません。

当時権力を圧倒的に支配していたのは天皇でしたので、その天皇が「護国」思想のもと、率先して寺社の建立を進めたというわけです。

また、「護国」という考えがある以上、それを担う寺社は国の中心である都に置かれる、というのも自然の流れですよね。

6.お寺の境内図(伽藍図)のヒミツ

次に、構成遺産の内、5つのお寺について見ていきましょう。

東大寺
唐招提寺
薬師寺
興福寺
元興寺

同じ奈良時代に造られたお寺ということで、これらのお寺にはいくつかの共通点を見ることができます。それをご紹介します。

金堂を中央に配置

東大寺大仏殿(金堂)

まず1つ目の共通点、それは、金堂が中央に置かれているということ。

金堂とは、お寺の本尊が置かれているお堂のことです。

例えば、東大寺ですと、あの大仏がいらっしゃる大仏殿が金堂になります。

法隆寺:西院伽藍の金堂と五重塔

奈良時代以前に建立された法隆寺の場合、金堂はあの有名な五重塔と共に、西院伽藍に置かれています。

上の写真の通り、法隆寺では金堂と五重塔は横に並べられ、どちらにより重きが置かれているということは分かりません。

薬師寺の金堂。後ろに東塔と西塔がそびえ立つ。(東塔は平成32年まで修復工事中)

一方、薬師寺を見てみましょう。

こちらは上の写真の通り、中央に金堂が置かれ、それを支えるかのように東西に塔が配置されています。

舎利信仰から本尊信仰へ

さて、このように、奈良時代に建立されたお寺の特徴として、金堂が中央に配置されていることがお分かりいただけたかと思います。

それでは、この「金堂」や「塔」はいったいどのような意味を持って建てられたものなのでしょうか。

「金堂」は先ほどお話しした通り、本尊を安置しているお堂のこと。そして、「塔」は仏舎利が納められている塔を指します。「仏舎利」というのは、お釈迦様の遺骨を指します。

本尊があるお堂と、お釈迦様の遺骨を納めた塔。どちらもお寺にとっては、とても大事な存在です。
大事なもの、重要なものはやっぱりお寺の中央に置かれるべき、という考えが根底にあるのです。

奈良時代のお寺が、「金堂」を中央にどっしりと置いているということは、本尊を奉ることを大事にしていた、ということに他なりません。

奈良時代以前は、本尊よりも仏舎利がお寺にとって重要である、という舎利信仰が一般的であったため、法隆寺のように、金堂と五重塔が並列に並べられているのです。

金堂と回廊

2つ目の共通点。それは、金堂と合わせて回廊が設けられていることです。回廊というのは、お寺の主要な建物を取り囲んでいる渡り廊下のようなものを言います。

東大寺、大仏殿(金堂)の横に続く回廊

2017年5月現在、回廊を目で確認できるのは、5つの構成遺産のうち、東大寺、薬師寺のみです。

ですが、元興寺や唐招提寺でも、創建当時には回廊が設けられていたことが分かっています。

興福寺では、平成30年をめどに中金堂の整備工事が行われていますが、完成予定のイメージ図を確認すると、こちらも中金堂の横から回廊が張り巡らされていることが分かります。

法隆寺、西院伽藍の金堂と五重塔を囲む回廊

ちなみに、回廊は飛鳥時代の法隆寺にも見ることができます。西院伽藍と東院伽藍の双方に、回廊が設けられています。

面白いのは、東大寺や興福寺では金堂の横から回廊が出ているのに対し、法隆寺や薬師寺では、金堂は伽藍の中に配置され、大講堂の横から回廊が出ています。

同様に、東大寺や興福寺、元興寺は金堂の回廊の外側に塔が建てられていたのに対し、薬師寺や法隆寺では回廊の中に塔が建てられていることにも注目してください。

塔はすべて多重塔

興福寺:五重塔

3つ目の特徴として、5つの世界遺産のすべてに、建立当時に多重塔が建てられていました。

ですが、現在、多重塔の姿を確認できるのは、興福寺・薬師寺・元興寺の3つのみです。
(元興寺は、厳密には「五重小塔」です。)
そして、その全て(薬師寺は東塔)が国宝に指定されているという貴重なものです。

このうち、創建当時の姿をそのまま残しているのは、薬師寺の東塔と、元興寺の五重小塔になります。
特に元興寺の五重小塔は、奈良時代に創建された五重塔で現存する唯一のものです。

また、発掘調査により、東大寺にはなんと七重塔があったことが分かっています。その荘厳な姿を目にしたかったですよね。

7.1000年以上前の面影が残る屋根

最後に、構成遺産の5つのお寺を訪れた時に観ていただきたいのが、「屋根」の部分です。

形が面白い、軒丸瓦

東大寺境内の建物の屋根

この時代のお寺の屋根には、軒丸瓦という瓦が使われていました。

上の写真の、屋根の先端にある円形の瓦が軒丸瓦です。

軒丸瓦を先端に置き、そこから屋根の頂きまで半円形の管のように伸びており、これが均等に並べられていますよね。

他の奈良市内のお寺も、おおよそ屋根はこのような瓦の作りになっています。

この軒丸瓦を使った屋根の形状は、飛鳥時代頃から日本で見られるようになったのだそうです。

屋根の装飾品、鴟尾

唐招提寺の金堂。屋根の両端に見事な鴟尾がみられる。

もう1つ、特徴的なのが、屋根の両端につけられた装飾品である、鴟尾です。

東大寺大仏殿の屋根に付けられた金色の鴟尾

特に、唐招提寺と東大寺の金堂の屋根に付けられている鴟尾はとても有名です。

「鴟尾」という漢字から考えると、この形状は鳥の尾の形と見ることもできますが、一方で魚の尾ひれにも見えることから、鳥と魚のどちらの尾を模したものなのか?という謎は、今もまだはっきりとしていません。

建物を建築するうえで最も大敵となるのが、火災になるかと思いますが、「火を振り払う」ことを考えると、「水」を連想させる「魚」の尾と考えたほうが縁起がよさそうです。

屋根の沿線は下に曲線に伸びていますが、屋根の頭の部分は横に直線になっています。
この直線の両端に、曲線系の鴟尾を付けることで、屋根全体としての曲線の調和が生まれ、より荘厳で優雅な印象が出ているように感じませんか?

 

いかがでしたでしょうか。

お寺が建てられた時代背景や伽藍の特徴などを知っていると、世界遺産を訪れた時の見方が大きく変わってくるはずです。

奈良の世界遺産を訪れる際は、今回ご紹介したポイントにも注目すると、より楽しく感じられることと思います!

それぞれの構成遺産を楽しむために

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